悪徳、それは一体どんな行為を、思いの事を言うのか。その行いを為す人間の心の中、根底となっているものは何か。それこそは利己主義。己だけのいっそ醜いと言わんばかりの思いが根底となっているのかもしれない。
いつもより前振りが何を言いたいのか分からない、そう思われた画面の前の読者の皆様に謝罪いたしたい。しかし、どうかご容赦いただきたい。何故ならこの作品は、私程度の語彙力では何と言っていいのか分からないのである。
一体この作品はどういう作品なのか。それを簡単に説明するのなら、「中田忍ワールド」という言葉こそが似合うのかもしれない。頭のネジを締めすぎて悪い奴じゃないのに狂っている、そんな彼がシュールでぶっ飛んだマシンガントークを繰り広げるヒューマンドラマなのがこの作品なのだ。
職業地方公務員、とある区役所の福祉生活課係長。陰で魔王、機械生命体と言われるほどに無機質に。常に仏頂面で冷酷で誠実、他人にも厳しく自分にはもっと厳しい。そんな男が中田忍(表紙左)。三十二歳、独身。
「税金で遊ぶな」
「それこそが君の利己主義だ」
時に年若い職員の熱い思いを冷たく、現実と言う圧力と反論できぬ正論で叩き潰し。今日もまた部下達から畏怖の念を集めながら。仕事に励む彼。
そんなある日、彼の日常は驚天動地の急展開を迎える。侵入者対策のセキュリティはばっちりな筈の我が家に、どう見てもエルフとしか言えぬ生物(表紙右)が入り込んでいたのである。
普通であれば慌てるのかもしれない。しかし彼はエルフから常在菌が放出されている事を警戒し、いきなり冷凍してしまおうと方策を巡らせる。
しかし、方策も整いつつあった中。エルフは目覚める。そして放った謎の言葉。それは忍たち人間には決して理解できぬ言葉。
それもまた仕方のない事かもしれぬ。創作の世界ならばすぐにでも意思疎通が出来るような便利なシステムがあるけれど、現実世界にはそんなものはなく。
ならばできる事は何か。それは可能性を突き詰め、話し合う事。親友の大学助教授の義光、部下の由奈を巻き込み。そもそもこちらの意思をどう伝えるかの方向性を考える事から始まり、排便事情に至るまであらゆることを想定し話し合う。
そんな中、世界にとっては異端分子なエルフに何処か自分を重ねたのか。真摯に真剣に向き合う中、忍の心の中で何かが変わっていく。
「君に全て任せると言った」
だからなのだろうか。柄にもなく鉄面皮の奥の心を晒したのは。それは彼の、エルフを受け入れるという悪徳の結果なのか。
全体的にシュール、正にメダパニ、もしくはフラフラダンス。混乱するような圧倒的な電波的な会話劇が溢れるこの作品。
だが、もしこの電波と波長が合ったのなら。この作品は唯一無二の作品となる筈である。
電波的な作品が読みたい読者様、人生のお話が読みたい読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。