前巻感想はこちら↓
読書感想:虚ろなるレガリア Corpse Reviver - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、この作品における日本人が追い込まれている窮状については、画面の前の読者の皆様の中で前巻を読まれた読者様であればもうご存じであろう。僅か千人にも満たぬ日本人は、生きる中で一体何を為そうとするのか。現状、日本人の中にしか存在しない龍の巫女、そしてその刃となり盾ともなる不死者。世界を文字通り変え得るほどの大きな力を持つ者達は、一体何を考え何を為そうとするのか。そこに触れていくのが今巻である。
そもそも前提条件であるが、確かに主人公である八尋は妹である珠依を殺そうとしている。それは復讐のために。しかし、そもそも戦い合う必要はないとも言えよう。そもそも、珠依以外を殺す必要もないと言える。敵対する理由もないのだから。
そんな当たり前な事実を現す出会いが今回、民間軍事会社の支配する横浜要塞を訪れた八尋と彩葉の元へと訪れる。出会いの主の名は丹奈と久樹。欧州重力子機構で物理的な観点から龍を研究する、「沼の竜」の巫女と不死者のコンビである。
八尋に興味があると嘯き接近してくる丹奈に八尋が振り回され、その様子を見て彩葉は何処か面白くなく。今まで殺すべき対象であった珠依以外の巫女と不死者に出会い、八尋は新たな視点を得ていく。
しかし、そんな中。世界的に有名な映像作家、マリユスから彩葉へ企業案件が持ち込まれたのを切っ掛けに。二人は新たな巫女と不死者と出逢う。新たな出会いの主の名は知流花と天羽。旧自衛隊の護衛艦、「ひかた」を領土として活動する亡命政府を統べる、山の龍の巫女と不死者。
軍人も民間人も一体となって努力して運用する彼等の在り方を見つめ。その裏、何かの黒い思惑が蠕動しているのを感じ。
妙な感覚に襲われる二人の目の前、不死者の特性を生かした恐るべき計画は晒され、亡命政府の恐るべき作戦も晒され。それを許容できず、天羽と戦う事となる八尋。だが、その戦局は更なる別の龍の巫女と不死者の乱入を受け崩され、暴走する山の龍を前に珠依までも現れ。二転三転する状況の中、久樹や丹奈とも協力し、懸命に立ち向かっていく。
その果てに待つのは切なき景色。加護の危うさが一因となり招いた、救えなかったという結末。
「龍はいずれ人の手で殺さなければなりません。それが邪悪な龍であれ、聖なる龍であれ」
沼の龍の陣営にも、山の龍の陣営にも、確かに彼女達の心を満たす想いがあった。それは彩葉には無い思い。持ち合わせぬからこそ伽藍洞、しかし故にこそ純粋。その思いは危うくも何処か揺るがずに。
しかし、彩葉も、八尋もまだ知らない。彼等を取り巻く世界は、何処にも油断できぬものであるという事を。
前巻を楽しまれた読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。