前巻感想はこちら↓
読書感想:君は僕の後悔 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、前巻の感想で私はこの作品を、既にお互いの心にお互いが根付いているやり直しラブコメ、まさに「光」であると言ったかと思う。しかし、私は忘れていたのかもしれない。光ある所には、「影」がある。光が強ければ強い程、影と言う名の「闇」もまた、強さを増すのだという事を。
藍衣との「後悔」、それは「光」に満ちた後悔である。希望がある後悔である。
では、その反対の後悔とはどんなものか。それこそが今巻の表紙を飾る、藍衣と双璧を為すもう一人のヒロイン、薫の抱える後悔である。
前巻の顛末を経て、取り戻した平穏な日常。いつもの「読書部」の日常に、今度は藍衣という新たな色が加わり。いつも意識する、彼にとってのヒロインが新たに加わった、新しい日々。
しかし、その色と入れ替わるかのように。「読書部」から抜けていく色がある。今までずっと一緒にいた筈の薫が突如として部活に顔を出さなくなり。それどころか、学校にも無断欠席すると言う異常な事態が起きてしまったのである。
結弦だけが知る、薫の抱える事情の一端。母子家庭で育つ彼女の、性に爛れた母親がいるという語るにはあまりにも重い事情。
「他人から立ち入られたくない領域ってあるんじゃない?」
その事情を知るからこそ、放ってはおけないと関わろうとする。けれど、彼女は何故か、結弦の手をすり抜けるかのように逃げていく。そして、「屋上の住人」と呼ばれる読書部の幽霊部員の先輩、李咲は結弦へ釘をさす。立ち入り過ぎるのは駄目だ、と。
「そうやって手を差し伸べて・・・・・・これ以上、私の宇宙を壊さないでよ・・・・・・」
それでも、何とか助けたいと手を伸ばそうとする結弦。だが、薫は。はっきりと、これ以上ない言葉で以て彼の事を拒絶する。これ以上、関わらないでと。
そう、今巻で語られる「後悔」、それは薫の後悔である。今までずっと、雨が降っているような心を持って生きて来て。結弦に助けられ、彼の隣に居場所を感じ。だが今、彼が別の宇宙へ去ろうとしているのを黙って見つめるしかない彼女の、怒りと悲しみと孤独に満ちた「後悔」である。
「一番じゃないのは、苦しいもん・・・・・・」
「大好きだから、さよならしよう?」
一番になれないのは分かっている、もう分かってしまった。だからこそ、終わらせようとする薫。大好きだから、好きになる。藍衣の言葉と対を為す、別離の言葉が投げかけられる。
決定的な別離の言葉、それを聞き、結弦は手を放す事を選ぶのか。
「結弦ならできるよ。結弦にしか、できないよ」
「うん・・・・・・もう、大丈夫」
否、そんな結末を選べるわけはない。背を押すのは藍衣の言葉。かつて薫にも助けられ、そして結弦にも助けられたからこそ二人の良さを知っている彼女の言葉。
「君がいる部室が・・・・・・好きなんだ」
責任の取り方なんて分からない、どうすれば良いのかも分からない。だけど、薫がいる部室が好き、薫という宇宙を失いたくないというのは確かな感情。故に、結弦と薫はぶつかり合い。決定的な変化を経て、薫はもう一度母親と向き合っていくのである。
どろどろと煮詰められているかのように重く、身を切り裂く程に鮮烈に。あまりにも重い抱えているものが、その重みを示していて。だけど、ここにあるのは等身大の感情。それが紡ぎ出すまごう事無き「青春」。
だからこそ、私は言いたい。太鼓判を押したい。今ここに、真の傑作がまた一つ生まれたという事を。
前巻を楽しまれた読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。