さて、時に「嘘」というものは一体、どういうものなのであろうか。「噓から出た実」、という言葉もあるように、実現すると喜ばしい嘘もあるかもしれない。しかし、暴き立ててはいけない嘘、というのも確かに存在し、真実が明らかとなる事で誰かを傷つけてしまう嘘、というのも存在する。なら「嘘」、というものは果たして本当は善なのか、悪なのか、どちらであろうか。
さて、この作品の登場人物は全員可愛い、と帯でも言われている。それは確かである、と言ってもいい。しかし、帯からして嘘が一つある。それは「可愛いけれど、同じくらいヤバい」という説明が抜けているという事である。
「私は鉛筆を盗まれたのさ」
とある県立高校、二年生の教室。とある秘密を持つも基本的には穏やかな少女、東月はクラスメートである少女、芳乃からいつも常備している鉛筆が盗まれた、という相談を受ける。
犯人を見ていない、そんな奴がいたらぶっ飛ばしてやる。正直な説明と憤りを現し別れた後。一人暮らしの自宅で東月は思いもよらぬ行動に出る。
正確に言うのはネタバレにもなるし、正直口に出すのも憚られるのでこの部分は是非、画面の前の読者の皆様の目で見てほしい。一つだけ言えるのは、こんな主人公、見た事が無い、寧ろ見た事があって堪るか、という事だが。
そんな日課に耽る彼女を訪ねてきた少女が一人。女性の味方であるという彼女に包丁を突き付けられ、個室のトイレで尋問され。呪いのように、嘘を付けないと言う事実を明かし一瞬の隙を突き形勢を逆転し。マウントを取り返し、女性の味方であるという彼女は衝撃的に過ぎる話をする。
彼女の名前は「でたらめちゃん」(表紙)。「擬人化した嘘」であり、もう一週間もない命であるという事。そして「嘘」というものは生きていて、時に実現する嘘は「世界すらも歪めてしまう」という事。
俄かには信じられず困惑する東月。そんな彼女にでたらめちゃんは告げる。東月が「嘘」をつけるようにする、だから「嘘殺し」を手伝えと。そして自分が生き延びるために今、狙っている「嘘」は芳乃がついている嘘である、と。
そんな状況の中、でたらめちゃんに呼ばれた芳乃が現れ、更にはまるでとんとん拍子であるかのように、でたらめちゃんを追ってきた擬人化した嘘、敗とその宿主である疾川が現れ。でたらめちゃんが傷つけられ、一瞬の隙を突き、芳乃に憑依していた嘘、羨望桜の力を借りその場からの脱出を果たす。
でたらめちゃんが語る新たな事実、それは「泥帽子の一派」と呼ばれる社会悪の存在。嘘たちを強化し、自分の欲望のために無軌道に嘘を育てる危険な存在がいるという事を。
そんな奴等を裏切りここにいるのは何故か、正義の心などでは全くなく、ただ自分のご飯が無くなるのは困るから。
食わなければ生き延びれない、戦わなければ生き残れない。芳乃の提案により敗を相手に共同戦線を取る事となる、東月とでたらめちゃん、芳乃と羨望桜。
「『作戦』大成功―――これで私たちの勝ちだよ」
勝負の鍵となるのは誰か。一人は、天才外科医であった過去を持つ疾川。もう一人は、嘘が付けぬゆえに全く嘘の匂いがしない東月。綱渡りどころか綱から転げ落ちるような前提の無茶な作戦を成功に導くのは何か。それは、嘘ではない嘘、そして勇気。
「あなたちなんかに、人間はやらせません」
「後はもう、その場しのぎに、行き当たりばったりに、流れのままに、一生懸命に――― 出鱈目に、戦い抜くというだけのことですよ」
だが、これはまだ始まりに過ぎない。全てはここから、なのである。
奇妙奇天烈、摩訶不思議、奇想天外。この作品、真の意味で言い表す言葉は何が相応しいのだろうか。少なくとも、私はその言葉を持ち合わせていない。
だからこそ、是非にこの作品を一度読んでみてほしい。
きっと、まだ見た事のない面白い青春を目撃できるはずである。