読書感想:ミモザの告白

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 黄色いミモザ花言葉、「秘密の恋」。それは正にこの作品に相応しい花である。では秘密の恋を告白する相手、それは誰になるのだろうか。一体誰にその想いを告白する事になるのだろうか。

 

 

ではここからこの作品の感想を書いていくわけであるが、まず初めに画面の前の読者の皆様にお断りしておきたい。この作品の感想を書くのは正直な話、私にとっては至難の業である。だがそれはこの作品が面白くない訳ではない。寧ろその逆、面白いに尽きる。だがその面白さに私が完全についていけていない、私の語彙力では一万の文字を費やしたとしてもきっと語りきることは出来はしないからである。その事をまずはご周知いただきたい。

 

一体この作品は、どういった作品なのだろうか。この作品は言うなれば、怪作の方へと分類される作品と言っていいのかもしれない。何故ならば根底のテーマとして使われているのが「性同一性障害」。笑いの種にする事もなく、真っ直ぐにそこに焦点を当てているの作品なのである。

 

日本の片隅の田舎町、椿岡。完璧な田舎町、と言うにはちょっと違う、中途半端な田舎町というコメントに困る町。そんな町に暮らす、友達の少ない少年、咲馬。

 

 彼には今、疎遠となっている幼馴染がいた。その名は汐(表紙)。陸上部のエースであり、交友関係も広く、成績も人望もトップクラス。正に天が何物も与え過ぎた存在である。

 

自分にはないものばかり持っている。初恋の相手の心すらも。過去のトラウマと劣等感から性格を拗らせた彼にも新たな恋愛感情を抱く相手が出来る。クラスの愛されキャラ、夏希と小説の話で意気投合し。汐の事を振り切るかのように、彼女への恋に燃える咲馬。

 

 が、しかし。その日の夜、公園でセーラー服を着て泣きじゃくる汐を見た事から全ての崩壊が始まる。全てが変わる引金が引かれる。

 

休みの期間を空け、学校に戻ってきた汐が来ていたのは女子の制服。明かされた、性同一性障害という今まで知らなかった彼、もとい彼女の事情。

 

だが、汐に向けられた視点は全て反転するかのように。自身の理解できぬものは気持ち悪い、否定したくなる。混じり気のない多数の悪意、排斥の思いが彼女へと向かう。

 

 それは何処までも等身大、リアルなお年頃の感情。不特定多数の悪意の集合体に対し、一体普通の少年である咲馬に何が出来るのか。否、何も出来ない。普通のラノベであれば、仲間達の力を集め変える事も出来たかもしれない。だがこの作品は何処までもリアル、等身大である。だからこそ出来る事はあまりにも少ない。

 

「何がしたいんだよ、咲馬は」

 

だが、東京からの転校生であり何処か壊れた恋愛観を持つ世良にだけは彼女を渡したくない。しかしその為に励む事は、汐の事を傷つけるだけ。

 

その果て、確かに何かが壊れる結果が待っている。

 

正に八目迷先生の真骨頂、近くて遠い世界の等身大が描かれるこの作品。

 

先生のファンである皆様、深淵みのある面白さがある作品を読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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