さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は誰かに対して一途な愛を向けたことはあられるであろうか。一途な愛、それは時に病的と言うものに変貌してしまうかもしれないけれど、それでも誰かを一途に思うというのは、とても素晴らしいものかもしれない。創作された物語の世界の中においても、そのように一途な愛をヒロインに向ける主人公と言うのは往々にしておられるものである。では、例えば殺されかけたとして、それでも一途な愛を向ける事ができる主人公と言うのはどれほど存在しているのだろうか?
若干最低な魔法の師匠、レイカ(表紙右下)に師事し、選択授業でファンタジーな魔法生物を専門に取り扱う生物過学を選んだ少年、クラオス。彼の姿は今、一歩街道を外れれば遭難確定と言われる樹海、「不出樹海」にあった。
「リアルにキモチワルイなあなた」
その理由は何か。それはクラオスの病的、と言っても過言ではないかもしれない伝説的な存在、「ダークエルフ」への愛が故に。一人の人間に一度しかないと言われるほどに機会がない、そんなチャンスを確実にものにするためにダークエルフの目撃情報があったのだ。
思わず師匠に溜息を吐かれるほどにぶっ飛んだ愛の元、樹海を探し回って。ようやくダークエルフの一人、「スレンダーさん」(クラオス命名)と出会って。
だが、何故かいきなり矢を射かけられたかと思えば捕らえられ、火あぶりにされかけ。スレンダーさんに助け出されたかと思えば、樹海で遭難する事になってしまい。
いきなりのサバイバルという絶望的な状況、使える魔法は誰かの姿をまねる事の出来る魔法のみ。更に齎されるダークエルフは巨竜を復活させようとしている不穏な情報、彼の目の前に現れる王国に仕えるエルフや騎士団、更に唐突にやってくる世界の危機。
だが、それでも彼は諦めない。諦めようともしない。
『僕が一人でやる』
名も知らぬダークエルフ達の為、誰かの恨みもその手に引き受けんとし、真っ直ぐにダークエルフ達を口説き、何の力もないくせに救って見せると豪語する。大言壮語、と言ってしまえば簡単であるかもしれない。だが、彼の根底にあるのは揺るがぬ愛。その愛が、頑なだったダークエルフ達の心を解きほぐす鍵となり、姿をまねるだけの使えぬ筈の魔法が、勝利への鍵となる。
奇跡と言ってしまえばそれまでで。けれど努力をし、必死に勝機を手繰り寄せなければ奇跡なんて齎せない。だからこそ、真似るだけの魔法の究極の形を導き出したそのひらめきは、ダークエルフ達にとっての「英雄」となれるだけの輝きを秘めていて。
だからこそ、一見三枚目な彼も、鎌池和馬先生の他作品の主人公と同じく、見逃せぬ輝きを持っているのである。
一途な主人公が好きな読者様、笑って燃えたい読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
使える魔法は一つしかないけれど、これでクール可愛いダークエルフとイチャイチャできるならどう考えても勝ち組だと思う (電撃文庫) | 鎌池 和馬, 真早 |本 | 通販 | Amazon