読書感想:嘘と詐欺と異能学園

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 さて、嘘と詐欺と聞いて画面の前の読者の皆様はどんな印象を持っておられるであろうか。嘘と詐欺、それはどちらも「騙す」行為である。例えば、カードゲームのような駆け引きが重要な戦いであれば、嘘をつき、相手を騙す事は重要であろう。だが、もしそれが命がけの戦いの場であれば貴方は嘘をつき続ける胆力はおありであろうか? そして詐欺のように騙す行為は、いつから準備を始めるのが正解であろうか?

 

 

 

物語の始まる三十年ほど前、新型爆弾により戦争の終焉が齎されたとある世界のとある帝国。だが、斜陽を迎える筈だった筈の帝国は、特異能力者と呼ばれる、異能とも言える力を発現させた者達により復興と繁栄を果たしていた。

 

 かの帝国に存在する、特務機関「白の騎士団」。その候補者を育成するのが舞台となるハイベルク国立特異異能力者養成学校。三百人近い入学制の内、卒業できるのは十数名のみというとんでもない学校である。

 

争い合い、奪い合い、欲望を肯定されながら級友の屍を積み上げ、その果てに卒業を目指す。正に弱肉強食という言葉こそが相応しい、殺伐とした学校。

 

「あんたは終わりだよ、異端者。騙し甲斐もなかったな」

 

 かの学校に入学する新入生の中に、瞳に獰猛なる昏い光を漂わせる少年が一人。彼の名前はジン(表紙右)。だが彼は異能者などでは決してない。彼の能力、そんなものはない。彼は何の力もない一般人である。

 

だが、異能なんてない代わりに彼には誰にもない力があった。その力とは、嘘と詐欺の力。育ての親の背を追ううちに身に着けた、天才的な力である。

 

「では始めましょうか。せめて、少しぐらいは楽しませてくださいね?」

 

 彼の目の前に現れる少女が一人。彼女の名はニーナ(表紙左)。「白の騎士団」の団員も何人も輩出してきた名家出身の少女であり、山を崩す程の念動力を使える異能者である。

 

だがしかし、彼女もまた猫を被る者。本当の彼女は何の力も持たぬ、ジンと同じ無能力な少女であり、演技の力で周りを欺き続けてきた少女なのである。

 

「よし、これで俺たちは共犯者だ」

 

 雨の中、お互いに握り合ったお互いの秘密。その秘密を手にジンはニーナへ手を伸ばす。脚本は書いてやる、役者として共に頂点を獲らぬか、と。その手をニーナは取らざるを得ず。共犯関係は結ばれる中、ニーナはジンの本質に触れていく。

 

「詐欺師が最も絶望する瞬間とは何だと思う?」

 

何故彼は頂点を目指すのか、何故無能力でも戦うのか。それは養父の遺した課題をクリアし、世界の謎を暴き立ててやるために。彼女は気付く。内面も外面も何もかも、自分と彼は同類である事を。

 

 無能力者二人、挑むは最強の一角、炎の人形を従えるベネット。何もかもが不利な中、仕込みも十分でない中。どこに勝ち目があるのか。

 

「あんたは終わりだよ、異端者。騙し甲斐もなかったな」

 

否。「勝ち目」? それこそ、否。戦う前から既に勝負は決している。同じ土俵に立っているように見えて、立ってはいない。既に舞台は詐欺師の掌中。二重三重の罠と策略の中、後は気が付かぬ間に絡めとられて倒されるだけ。

 

この作品には「嘘」が溢れている。何処までか仕込みで、何処までが本当かなんて簡単には分からないかもしれない。だが、だからこそ騙される。そして気が付かぬ間にどんでん返しに巻き込まれてひっくり返されて。その果てに心に突き刺さるような面白さを叩き込まれる。これはそんな作品である。

 

どんでん返しが好きな読者様、騙されてみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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