読書感想:日本語が話せないロシア人美少女転入生が頼れるのは、多言語マスターの俺1人

f:id:yuukimasiro:20210629222645j:plain

 

 さて、バイリンガルという言葉がこの世界にはある訳であるが、何か国語かを操れるというのは一種格好良い事なのかもしれない。だが、よくよく考えてみれば、語学を生かした仕事に就かない限り、何か国語を操れるとしても、中々披露する機会は無いのかもしれない。道端を歩いていて、困っている外国人と都合よく遭遇するなんて天文学的な確率であるので。

 

 

が、しかし。この作品においてはその何か国語かを操れることが重要であり、それこそが作品を進める鍵となるのである。

 

アイドル活動をしている双子の姉、詩織と母親と折り合いが悪く、詩織のファンの同級生達とは微妙な敵対関係であるという以外は、ごく普通の少年、伊織。彼の数少ない特技は、通訳のバイトで鍛えた語学力であり、高校生にして既に様々な外国語を操れるという事。

 

 そんな彼の特技が生かされる時が、唐突に訪れる。まるで家族のように懇意にしている隣の家の女性軍人が、突如ロシアから里子を引き取ってきたことにより。彼女の名前はクリスティーナ、通称チーナ(表紙)。ロシアで今まで生きてきたが故に、ほぼ日本語を話せない少女である。

 

伊織と同じ高校に転校生として入る事になり、日本語がまだまだ苦手な彼女とクラスとの橋渡し役に必然的に就任し。結果として一緒にいる機会が増えていき、共にクラスと関わる機会が増えていく。

 

 その一見仲が良い様子は何を齎すのか。その答えの一つはやっかみ等の黒く醜い感情。だが、それだけではなく。チーナと関わり合う事により、必然的に伊織の心も変わっていく。

 

信頼できる仲間はいるけれど、何処か疲れていたのかもしれない。当然かもしれない、それも。いつも気を張っている事の出来る人間なんてほぼいない、増してやそれが大人でもない子供なら。

 

だが、伊織の事を悪く言おうとする級友達に、チーナは不慣れな日本語で毅然と立ち向かった。どう思われるかなんて関係ない、そう言わんばかりに周りへと牙を剥いた。

 

それこそが、伊織の心が何処かで求めていたもの、「味方」。何も考えず味方をしてくれると分かる、側にいてくれる。故に彼女が、どんどんと特別になっていく。

 

「詩織と母さん、お互いの一番大事なものを奪ってやる。容赦はしない」

 

 だからこそ、自分だけではなくチーナまでをも傷つけようとした詩織を許すわけはない。今までただ耐え忍ぶだけだった彼は、人知れず仲間達と共に牙を剥く。彼が世界に叩きつけるのは何か。それは今まで沈み込まされていた鎮まらぬ魂があげる反逆の歌。今、ここに始まるのだ。彼にのみ許された、復讐と言う名の決別を為す為の戦いが。

 

ブコメと言えばラブコメである、だが、この作品は中々に苦く。だからこそ、ラブコメにはまだ早い。潰すべき敵を殲滅してからこそきっと始まるのだろう、本当のラブコメが。

 

だが、この作品には確かな優しさと温かさがある。それが甘く面白いのも確かなのである。

 

ビターみが強いラブコメが好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

日本語が話せないロシア人美少女転入生が頼れるのは、多言語マスターの俺1人 (講談社ラノベ文庫) | アサヒ, 飴玉 コン |本 | 通販 | Amazon