読書感想:ホヅミ先生と茉莉くんと。 Day.2 コミカライズはポンコツ日和

f:id:yuukimasiro:20210609220112j:plain

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:ホヅミ先生と茉莉くんと。 Day.1 女子高生、はじめてのおてつだい - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、この作品は葉月文先生だからこそ書ける作品であると言う事を私は前巻の感想で綴ったかと思う。それは勿論、今巻でも変わっていない。それどころか深まっていると言っても過言ではない。では、ホヅミ先生はハッピーエンド以外許容しない、と前巻で書いた訳であるがここで一つ、画面の前の読者の皆様に問いかけてみよう。「作品にとって最も幸福な結末、展開」とは一体何であろうか?

 

 

そんな疑問を問いかけてくるのが今巻であり、作品を愛するが故、その愛故による争いが巻き起こっていくのが今巻なのである。

 

茉莉の「おてつだい」のおかげもあり、はじめてを一つ積み重ねる事が出来たホヅミ先生こと朔。今は未だ先を往く好敵手の手は遠いけれど、それでも少しだけ踏み出す事が出来た。一歩、追いつくために踏み出す事が出来た。

 

 その一歩は、朔と茉莉の予想外の早さで進み、更に一歩を進ませる事となる。ある日、唐突に担当編集である双夜に茉莉も含めて呼び出され。そこで告げられたのは「放課後、制服の君と。」シリーズのコミカライズ決定の知らせ。そう、また積み重ねる事に成功したのだ、新しいはじめてを。

 

「ホヅミ先生。手を繋ぎませんか?」

 

怒られるかもしれないと思って茉莉から勇気を貰って。一番のファンである彼女をうれし泣きさせちゃったりして。

 

「帰ろうか」

 

「はい」

 

いつの間にか、お互いの帰る場所があの家になっている事に気付かずに、穏やかに、どこまでも自然に。

 

まるで吹き抜けるかのような春の風のよう。そんな穏やかで優しい日々を茉莉と重ね、今ここにしかない瞬間を過ごしていく朔。

 

 だが、その裏で既に不穏の種は芽吹いていた。それは容易く、嵐となって吹き荒れる。そのきっかけとなるのは誰か。それは「放課後、制服の君と。」の絵師を手掛けるポンコツことPOP☆コーン先生と、コミカライズを手掛ける事になった高校生イラストレーター、ハレルヤだ。

 

ポンコツとハレルヤ、今まさに咲き誇る天才と、今まさに咲こうとしている天才。同じ場で勝負している、友人であり好敵手、そしてホヅミ先生のファンである二人。

 

しかし、ポンコツには許せなかった、ハレルヤが提出してきたコミカライズのネームが。それは何故か。それは彼女が書いたのは、朔が言った通りに再構成した作品が全く違った者となっていたから。否、その表現は正しくないのかもしれない。彼女は確かに、本当にこの作品を愛している。だからこそ彼女は、ストーリーを極限までそぎ落とした、ヒロインの魅力に焦点を当てた形で作品を再構成したのだ。

 

だがそれは、心血を注いでこの作品を作り上げたポンコツへの挑戦状に他ならず、朔への挑戦状に他ならぬ。だからポンコツは、ハレルヤへとコミカライズを賭けて勝負を挑む。作品を愛する者として。

 

 普通に考えれば、どちらが勝つかなんて答えはもう見えている。だからこそ誰も傷ついてほしくない、誰しもを笑顔にしたい。自らの勝手な願いに揺れる朔。

 

「あります。ううん。もし、そんな希望がこの世界のどこにもなくても、きっとあなたはそれを無理やりにでも作ってしまうんです」

 

そんな彼の背を支えるのは。もちろん茉莉である。彼の心を真っ直ぐに受け止め、信じる茉莉は彼に信頼と共に告げる。どうか奇跡をもう一度、と。

 

 そして彼が見つけ出したのは再びの奇跡。誰に傷つく事もなく、それどころか個々に成長の機会を齎せる最高の結末。

 

この選択を玉虫色の選択と言う人もおられるかもしれない。だが、忘れないで欲しい。この選択の根底は愛である事。ポンコツやハレルヤ、茉莉と同じように。作品を愛するが故に見つけ出せたのだ。

 

それは正に、彼だからこその答え。世界の神である葉月文先生の手すらも振り切って、確固たる意志を以て、世界へと叩きつけた正しくハッピーエンドである。

 

とくんと響く、この奇跡をもっと、何度でも。そう願いたいのは私だけであろうか。否、そんな事は無いと信じている。 もっとこの先も読めると信じている。

 

だからこそ、前巻を楽しまれた読者様、やっぱり温かい世界が好きな読者様は是非読んでいただきたい。

 

とくんと更に高まる面白さ。この作品、まさに極上である。

 

ホヅミ先生と茉莉くんと。 Day.2 コミカライズはポンコツ日和 (電撃文庫) | 葉月 文, DSマイル |本 | 通販 | Amazon