さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。ラノベの数々を手掛けられる作家の皆様は須らく偉大なる存在であると私は個人的に思っているが、そんな作家の先生方の内面に光を当てた作品というのはどれだけ存在すると思われるだろうか。そして、そんな作品の中で見えてくるものとは何であると思われるだろうか。
さて、この作品を書いていく前に先に一つ語っておくが、この作品はホヅミ先生こと朔という、デビューしてからかれこれ六年の底辺ラノベ作家の日常を描いた作品である。本の数だけ存在する、とても大切な話である。
そしてこの作品はこの上ないハッピーエンドへと導かれる。そこに悲しみなどない、最後に待っているのは幸福である。
この作品を開いた読者様、特に葉月文先生のファンである読者の皆様であればこうは思わないだろうか。言葉を選ばずに言うなれば、この作者、葉月文先生じゃないか、と。
無論そんな訳はない。この作品はフィクションだから。だが何処か生々しい描写に満ちているのだ、彼の周りは。
デビューして六年、得意とするのは世界観で魅せるタイプの物語。だがしかし前作である「季節シリーズ」は鳴かず飛ばず、挙句の果てには同期の作家のファンに自分の作品を完全否定され。
「未来でまってるね」
「うん。すぐいく。走っていく」
先を往く同期の天才達の心を揺らがす事すらできず。更には売れ線たるラブコメを書いてみたらと担当編集者に諭され。
そんな、自分を見失いつつあった彼の元へ、一つの出会いがやってくる。訪れた出会いの主、少女の名は茉莉(表紙)。突然朔の家にやってきてお世話をしてくれる事になった、謎の美少女である。
「それなら、手を繋ぎましょう」
ある時は、買い物帰りに手を繋いだり。
「うん。茉莉くんもよく頑張りました」
またある時は、茉莉の勉強を見て思わず頭をなでてしまったり。
「そうですそうです。デートなんですから」
更にある時は、夢の国で二人でデートしてみたり。
言葉にすればこれだけ、それは何でもない日々。特に大変な事も起きない、非日常でもない日常の延長。だが、そんな日々が枯れかけていた朔の心に命の息吹を吹き込み、燃え上がる熱は新たなる作品を導き出す。
「放課後、制服姿の君と。」そんな日々に名を付けて描かれた新たな物語は、満を持して世に送り出され一気に駆け上がる。だがしかし、茉莉は朔の元を去ってしまう。何故なら彼女が側にいれたのは、ずるい方法だったから。
今までだったらここで立ち止まっていたかもしれない。だが、もうあの日の自分じゃない。既に朔は背を押されている。そして不幸な結末は否定しなければならない。何故ならば彼はハッピーエンド以外許容しないから。その胸に今、再び吹き込んだ熱は始まりの熱。茉莉という初めてのファンが齎してくれた、始原の想いの熱だ。
「それでも、それでもさ。僕が小説を書き続けるのは―――」
例えどれほど泥臭くても、格好悪くても。それでも「彼女」にとってのヒーローでありたい。それこそが「読者」の前での「作者」の意地だから。
葉月文先生だからこそ描ける作品。この作品を評すならそんな一言が相応しいだろう。葉月文先生の十八番である、世界の綺麗さと人の心の温かさ。そしてそれを躍らせる、ラブコメという名の現実感に満ちた見知らぬ舞台。
正に新境地、正に未知なる体験。だからこそ面白い、心を揺さぶってくれるのだ。こんなにも。心が温かくなって、優しく背を押してくれるのだ、こんなにも。とくんと胸が高鳴るのだ、こんなにも。
葉月文先生のファンの読者の皆様、綺麗なラブコメを読みたい読者の皆様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
ホヅミ先生と茉莉くんと。 Day.1 女子高生、はじめてのおてつだい (電撃文庫) | 葉月 文, DSマイル |本 | 通販 | Amazon