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読書感想:わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ! (※ムリじゃなかった!?) 2 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、今巻は表紙から見ての通り、紫陽花さんが一人で表紙を飾っている。つまりはそういう事である、彼女が主役の巻である。画面の前の読者の皆様の中にも、彼女が主役となる機会を望まれた方も多いであろう。まさに、大天使である彼女の活躍を。
だがしかし、何かお忘れではないだろうか、画面の前の読者の皆様。
だからあなたはせいぜい、自分が作り出した幻想の瀬名ではなく、本物の瀬名を見てあげることね。
そう、紗月さんもこう言われている通り、我々は瀬名紫陽花という一人の少女に、幻想を抱いていたのではないだろうか。
天使と崇めていても、彼女とて一人の女の子。何処にでもいる、普通の女の子。そんな彼女の内面に目を向け、れな子とのふれあいの中で変わりゆく心を描くのが今巻である。
『―――私ね、家出することにしたんだっ』
夏休みが始まり、いつものように真唯に振り回されたりも束の間。紫陽花の家に遊びに行った際、弟たちに紫陽花が爆発してしまったのを見た事を切っ掛けに、家出するという事を告げられ、心配のあまりについていく事を選ぶれな子。
「結局、私がそうしたいから、してるだけ。ぜんぶ、私のためなんだよ」
その最中、宿泊費用の折版を賭けた卓球勝負の中、紫陽花の醜い側面は晒される。結局、誰かに優しくするのは自分の為、自分の都合を押し付けているだけ、という心の懺悔。
「人を形作るのは、言葉じゃなくて行動! 紫陽花さんがどんな思想でいようと、紫陽花さんの行動に救われた人はいるんです! わたしとか!」
が、しかし。それがどうしたと真っ向から受け止めて見せたれな子は、自分も同じ気持ちである事を真っ直ぐにぶつけ、啖呵を切る。ずるいなんて関係ない、いいことも悪い事も、大好きだから貴方と共有したい、と。
その心の叫びは、真っ直ぐに彼女の心へ届く。自分の気持ちを押し付けてばかりだった、ずるい彼女の心を動かし、未経験の気持ちを呼び起こす鍵となる。
「君も、同じ気持ちなのかもしれないってね」
その想いは、途中から合流してきた真唯の導きにより、恋へと変わり紫陽花の心の中に宿り。
「生きるとは、変わることだ。環境によって、そして出会いによって、人は無限に変わってゆく。海を泳ぐ魚は、長い時を経て、空を飛ぶ鳥にだってなれる。変化を諦めてしまえば、もう人はなににもなれない」
二人きりの公園で、真唯に変わる事を促され、大丈夫だから、と背を押され。
「れなちゃん、大好きです。私と付き合ってください」
そして、彼女は遂に一歩を踏み出す。それは、間違いもなく「天使」が「人間」になったという証。そして、もう夏休みの前には戻れない、後戻りのできぬ変化の引金。
否応なく、関係変化の引金は引かれた。故にもう、あの頃のままではいられない。
全てはここから、停滞を越え一気に動き出す今巻。
画面の前の読者の皆様も、どうか乗り遅れないでほしい。どうか、彼女の変化を見逃さないでほしい。まごう事無き「尊い」を味わえる筈である。
わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 3 (ダッシュエックス文庫) | みかみてれん, 竹嶋 えく |本 | 通販 | Amazon