前巻感想はこちら↓
読書感想:忘れえぬ魔女の物語 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、今更振り返る必要はないかもしれないが一応少しだけ振り返って一言言うとするのなら、この作品は前巻だけでも一つの節目を迎える所まで描いている、綾香と未散の二人が繰り返しの「今日」を経て、お互いに特別な存在になるまでを描いている。ではこれ以上、この作品においては何を語る必要があるのであろうか? そう思われた読者の皆様に私は一言、こう言いたい。貴方はまだ、甘いと。
確かに二人の新たな関係は始まった。だが、それだけである。世界が繰り返しを迎えると言う事実は何も変わっておらず、そして魔女の呪いも無くなってはいない。
そう、何も変わっていないし終わってもいない。だからこそ、この作品はここからが本番。まだまだ芽吹かせることのできる種は幾らでも残っているのである。
わたしはどうなりたいのだろう。未散にどうして欲しいのだろう。
ようやく訪れた、幾度も繰り返すのは変わらずとも平穏な日々。温い平穏を謳歌する中、綾香の中で持て余す想い。お互いに大切な者同士として意識し、それでもあと一歩、変化の一歩が踏み出せず。未散の家でお泊り会などという甘いイベントを経ながらも、どこか曖昧な関係のままの二人。
「相沢、演劇部に助っ人で来てくれ」
そんなある日、綾香は友人である演劇部所属のなつめから、代役として演劇部の舞台に出演してほしいという依頼を受ける。
この依頼こそが、今巻の事件の呼び水。そして鍵となるのはなつめ。彼女もまた、綾香と同じように呪いに侵されていた。彼女の呪い、それは「周囲の心の声を無差別に受信してしまう」というもの。
想像には難くないであろう。もし、知りたくもない事を強制的に頭に叩き込まれたら。知りたくもなかった誰かの想いを強制的に聞く事になってしまったら。
交錯するはそれぞれの夢、将来への願い。語られるのは、未散という伴侶を得た綾香の変化と二人の関係の、不可侵ともいえる格別さ。
「うまくいくわ。何をどうすればよかったか、わたしはもう知ってるから」
止まらず、肥大していくなつめを蝕む呪い。その呪いを前に、綾香は成長した心で一つの決断を下す。地獄の続きを往く事になるのが正論だと言うのならそれを否定する。全部は救えずとも、自分の手が届く範囲くらいは救いたいと。
今までならば関わろうともしなかったかもしれない。知ろうともしなかったかもしれない。だが、今は違う。隣に受け止めてくれる大切な人がいる。だからこそ、勇気を出せる。
それこそが今、彼女にとって必要なもの。それを手に入れたから自分も、未散との関係に一歩を踏み出せる。
呪いと呪いが組み合わさると言う新たな事態が、更なる展開への種をまき。そして更に深まる心理描写でこれでもかと心を揺さぶられる。
綺麗なだけではない、思春期だからこその生の感情を真っ直ぐに。だからこそこの作品は美しく、面白い。
前巻を楽しまれた読者様、綺麗な百合が好きな読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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