さて、恋愛とは付き合う前が大切なのか、付き合ってから後が大切なのか。付き合った相手の好きに自分を合わせる事が大切なのだろうか。もしその合わせた自分が、本来の自分ではなかった場合、一体どうすればよいのであろうか。
この作品の主人公、春人はめでたく失恋している。付き合った彼女に振られた事より始まり、その繊細な心に傷を負った事より、この作品は幕を開ける。
何故彼は振られてしまったのか。その理由は、無理して社交的な自分という存在を作り、偽ってしまったから。本来の自分との乖離は軋轢を生み、結果として失恋と言う場所へと導いてしまったのだ。
もうどうでもいい、気にしなくていい。フラれたのを切っ掛けとして、元の根暗な自分の殻へと潜っていく春人。
「・・・・・・もう一回聞くが人違いの可能性は」
「ないわ」
だがしかし、元恋人との間に繋がる赤い糸が切れるのを待っていたと言わんばかりに、彼へと告白する少女が一人。彼女の名前は、桐ケ谷(表紙中央下)。弓道部所属の文武両道なクラス委員の少女である。
気が付けば目で追っていた、気が付けば好きになっていた。そう恋を告げてくる彼女を信じる事が今は出来ず、春人は折衷案としてまずはお友達から始める事となる。
だが、更にまだ彼を取り巻く物語はここから。そう言わんばかりに、桐ケ谷と心を通わせる春人へ、更なる出会いがやってくる。
「わたしはまた田崎くんがひとりぼっちになるのを、見たくなかったんです」
図書館で出会った引っ込み思案なクラスメイト、林(表紙左上)に色々と助けられ、過去から繋がっていた縁とまだ自分が失恋に囚われている事を自覚し。
「なんだかんだ言ってもさ。春人と千尋のことは春人と千尋がどうにかするしかないよ。あたしができるのは背中を押すことぐらい。意味、分かる?」
自分をフッた元カノの親友、高坂(表紙右上)からは、元カノと話し合う事が大切だと諭され背を押され。
「本当の俺は、こんな風にみっともないやつだよ」
そして、春人は旧友との再会、自身の「好き」への問いかけを経て、元カノである紺野と向き合い己の本当を告げ、正直に告げる。自分がふがいないせいで、迷惑をかけてごめん、と。
「終わったら『また』始めたらいいんだよ」
この作品は、春人という一人の少年が囚われていた過去を抜け、もどかしくも少しずつ、おっかなびっくりと踏み出していく作品である。ここにあるのは、「青春」である。まだ何の色にも染まっていない、純粋でもどかしくてじれったい、遠回りして三歩進んで二歩下がるような「青春」である。
だからこそ、そんな独特の透明感と終わりを経た寂寥感があるからこそ。この作品は、どこかほろ苦くも温かくて甘い、まるで染み入るような面白さがあるのは確かなのである。
ほろ苦くも甘い青春が好きな読者の皆様。純粋がむき出しな「青春」が好きな読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。