読書感想:泥酔彼女 「弟クンだいしゅきー」「帰れ」

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。特に大人の読者の皆様。貴方は酔いが回るとどうなるタイプの人間で在られるだろうか。もしかしたら、悪酔い、または泥酔してしまい誰かに迷惑をかけた事はあったりするであろうか。

 

そういう意味であれば、この作品のメインヒロイン、の筈のヒロインは思いっきり主人公に迷惑をかけてしまっているのかもしれない。

 

 そのヒロインの名は七瀬(表紙)。主人公である穂積の姉、職業芸能人マネージャーの姉の知り合いである役者の卵であり、聖夜のどうしようもない出会いから彼に迷惑をかけ続ける事になってしまう女性である。

 

「もう思ってるよー!? 私たち友達でしょ!?」

 

「いや違いますよ」

 

その酔い方は言うなれば絡み上戸と言うのであろうか。姉から合鍵を預かっているから気安く家に出入してきて、穂積の都合に関係なく振り回して、仕方なくおつまみを作っている間も絡んできて。

 

 酔っていない時が無いのではないだろうかと言わんばかりに醜態をこれでもかと見せつけ、着々と穂積に煙たがられていく七瀬。だがしかし、見捨てられぬ。それは何故か。無論そこには穂積の優しさもあるであろう。けれどそれだけではない。何故なら彼女は酔っ払い、なだけではないから。その身には確かに情熱を秘めているからである。

 

かつて穂積も脚本家という形でかかわるも、女子との交際トラブルで離れた演劇の世界。戻ってくる代わりに、と求められた演劇原稿。

 

その原稿を書き上げる為に、穂積は七瀬を観察する事を思い立ち、彼女と過ごす日々の観察レポートをつける事を始める。

 

 そんな日々の中、垣間見える七瀬の演劇への情熱。まだまだ未熟だけれど、周りに彼女よりも凄い女優は幾らでもいて、今後輩に追い抜かされそうになったりしているけれど。それでも好きな事への一途な情熱は消えはしない。

 

「面白いよ弟クン! 他のも読む! どれか取ってー」

 

そんな彼女は自分の書いた脚本、またあの世界へ戻る為に書き上げた無数の自分の成果を褒めてくれた。

 

 だからこそ彼女を放っておけない。彼女が齎してくれるのは何だかんだで唯一無二の日々。だからこそ、彼女が困っているなら全力で駆けつけ助けてしまう。

 

「まーた! 可愛い照れ隠し!」

 

そんな彼の在り方が七瀬にとっては誰よりも可愛らしくて好ましくて。そして彼が支えてくれるからこそ、スランプという不調を乗り越えまた立ち上がれる。

 

 泥酔という大人だからこそ出せる魅力と可愛らしさ、その中に溢れる「好き」への情熱。一度走り出したら止まらぬ、一風変わったけれど根は王道な面白きラブコメであるこの作品。

 

 

だがしかし、まだ「ラブコメ」は始まっていない。何故なら、今まさに舞台にヒロイン達は集ったばかり。

 

ぽんこつ酔いどれお姉さんの七瀬。演劇に天賦の才を持ち穂積に執着する同級生の羊子。そして穂積の苦い過去の象徴、後輩の水守。

 

だからこそ、お楽しみはここからだ。

 

 

情熱溢れるラブコメが好きな読者様、面倒なお姉さんが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

泥酔彼女 「弟クンだいしゅきー」「帰れ」 (GA文庫) | 串木野たんぼ, 加川壱互 |本 | 通販 | Amazon