読書感想:竜歌の巫女と二度目の誓い

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は忘れられない約束というものはあられるであろうか。まるで呪いのように、心の中に絡みついて忘れられなくなっている約束というものはあられるであろうか。

 

「私を守ってくださいますか?」

 

かつてそんな約束をとある騎士と交わし、親である領主の罪のあおりを受けてなすすべもなくその命を処刑という形で奪われた一人の少女がいた。彼女は「竜歌の巫女」。この地に住まう知恵持つ獣、竜と人を繋ぐ役目を持った巫女であった。

 

その惨劇から幾度目かの季節が廻り。巫女は名もなき少女として転生し、騎士となっていた約束の相手、ギルバートと再会する。彼に雇われる形となりメイドとなる、彼女に今生で与えられた名をルゼ(表紙)という。

 

憎んだ相手との同居生活。それは今までとは違う未知なる生活。ある意味では望んだかもしれない生活。

 

日々、危なっかしくてそそっかしい見習メイドな同僚のリンナに振り回され。

 

かつて誓いを交わした相手であるギルバートが、今はどんな生活をしているのかを見る事になったり。

 

そんな何でもない日々が、だけど温かくて。その温かさが次第に、気付かぬ間に全てを呪い凍り付いていたルゼの心を溶かしていく。そんな彼女を見守るあの日の子供達。彼、彼女達の間にも様々な思いがまるで蘇るかのように芽生えていくのである。

 

かつて彼女を救えなかった事に対する悔恨。彼女にもたらされた理不尽な死への、今も続く憤り。

 

その憤り、その根底に込められたのは今もなお続く巫女への愛。その激情に駆られるままに走り出した先、待っていたのは哀しい激突。

 

救えなかった、殺してしまった。やりきれぬ想い同士が互いを喰うかのようにぶつかり合う。

 

そんな二人を止めたい。ルゼの心に芽生えたその感情は何か。その感情に、世界の全てを呪った「彼女」の面影はあったか。全てを呪いそれを忘れなかった彼女は、何故そう願ったのか。

 

それこそがルゼが今までの短い時間の中で経験した、出会いと想いの積み重ね。そして呪いだけではない、過去から今へと引き継がれるのは。悔恨と義憤が継がれるように、約束と愛する想いもまた、引き継がれるもの、忘れられないものなのだ。

 

「皆が笑っていられる世界で・・・・・・あなたと、笑って生きたいのです」

 

「―――君が、望んでくれるなら」

 

だからこそ、もう一度あの日の誓いを。例えまた傷つけてしまうとしても、この想いを今度こそ信じて。

 

残酷で鮮烈で救いが無くて。だけどそんな世界に生きている人達の心には確かな温かさがある。だからこそ、重厚な面白さがあるのだ。

 

重厚なファンタジーが好きな読者様、人の心の光を見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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