読書感想:氷の令嬢の溶かし方(1)

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。溶けてはいけない氷は北極の氷である。溶けると悲惨な事になるアイスである。では、溶けても良い氷は何か? それは誰かの氷りついた心、只一つである。

 

他者を寄せ付けず、常に誰とも距離を取り、群れを作らず。「氷の令嬢」と呼ばれる文武両道の才媛、冬華(表紙)。

 

しかし、孤高であるという事は孤独であるという事。孤独な彼女に寄り添えるのは誰か。それこそが、この作品の主人公である朝陽の役目である。

 

マンションの部屋でお隣同士、だけど没交渉な為互いに関わる事は無く。

 

しかし、朝陽は目撃してしまった。体調不良にも関わらず無理に登校しようとし、倒れ伏してしまう彼女の姿を。

 

放っておけなかった。祖父から受け継いだお節介で世話焼きの心が助けろと叫んでいたから。

 

体調を崩していた彼女を必死に看病し、お腹が空いていた彼女に病人食を作る。プロの料理人である両親から影響を受けた、その料理の腕で。

 

「・・・・・・懐かしくて」

 

その一口の先、冬華が無意識にこぼした涙。その涙から始まっていく。この作品も、彼女の心の雪解けも。

 

借りを返すと彼の家に押しかけ、勉強を教える事になり懇切丁寧に教え込み。

 

一番の宝物であったリボンを無くした時は、夜遅くなろうとも一緒に探し。逆転の発想から朝陽が見つけ出し。

 

球技大会、ちょっとした理由はあれど彼女に勝ってほしいからこそ約束をして。

 

そしてクリスマスイブ、朝陽の両親が経営するレストランに出向いて、クリスマスに二人でデートしたりして。

 

この恋は、一足飛びに非ず。何でもない、ありふれた日々を一つずつ積み重ねていく、じれったくてこそばゆくて。まるで冬の夜に星空を眺めながら飲むカフェオレのように、仄かに苦くて仄かに甘く。

 

だけど急がないからこそ。一歩ずつ積み重ねていくからこそ、二人の関係は成り立っている。

 

「その話、忘れないでくださいね」

 

球技大会、彼に願われ本気を出せて。

 

「いつか、そういう日が来るかもしれませんね」

 

クリスマス、街頭で問いかけられて悪戯っぽく笑んだその顔に孤高の欠片はありはせず。

 

業火で一気に溶かすのではない。何故なら彼は朝陽だから。そう、まるで冬の朝、降り積もった雪が朝陽で優しく少しずつ、小さく音を立てて溶けていくように。即効性ではなく遅効性、少しずつ溶かしていくからこそ、この作品は甘酸っぱく青春の味が際立っているのである。

 

クールな彼女が自分だけに見せる顔が好きという読者様、こそばゆいラブコメが好きという読者様にはお勧めしたい。きっと満足できるはずである。

 

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