さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は図書室と言う舞台に何か思い入れはあられるであろうか。本の匂いと本の色に囲まれたその舞台は、何かが始まる舞台であると思われないであろうか。
とある高校、その図書室を管理する図書委員を、仲間である先輩の卒業により失い一人で勤める少年、静流(表紙左)。彼は今、困っていた。それは何故か。その理由は、母子家庭であった彼の家庭、その大黒柱である母親が事故により急逝し孤独になってしまったから。
しかし、彼に手を差し伸べる存在があった。それは自分の父親であった大病院勤務の医師の男性。そして彼の一人娘であり、自分にとっては異母姉である先輩、紫苑である。
突然出来た、母親以外の家族。そして姉という存在。自分の日常に唐突に現れた異分子に二人は戸惑い、一歩ずつおっかなびっくりに距離を詰めようと頑張っていく。
だが、そんな二人の姿を何処か違った目で見つめる少女がいた。それは静流の先輩であり、誰にでもお淑やかな態度で接する先輩、泪華(表紙右)である。
彼女は静流に恋焦がれる。それは何故か。
「どうやらわたしたち、『同類』のようね」
それは自分と静流は同類、相手も自分も冷ややかなまでに客観視出来て、そのおかげで最適解の自分を出せるから。どこか「自分」という存在が行方不明な者同士だから。
この恋は本物、そう言わんばかりに彼女はお淑やかな態度を崩し静流にしか見せぬ素顔と仕草で彼へと迫る。
「あのね、静流、わたしに何の連絡もないなんてひどくはないかしら? ずっと休んでいるから心配したのよ?」
母の訃報も長期休暇も教えてくれなかった彼へと、隠すことなく不満を漏らし。
「ええ、好きにさせてもらうわ」
紫苑が彼を目の敵にする事に引っ掛かりと不満を覚え、彼女へ言葉の棘と共に挑戦的な態度で告げて。
そんな彼女の想いに応えられず、自分に恋愛は向かないとはぐらかす静流。だけど彼は優しかった、優しすぎた。不器用すぎる程に、自分を後回しにして置き去りにするほどに。
「残念ですが、これでも分からないと思いますよ」
紫苑へといっそ苛烈かと思える程に、引くこともせずに事実を突き付け。
「それが、どうした・・・・・・!」
紫苑が傷つけられそうになった時は、自分の身が傷つくことも厭わず。後先も考えず激情のままに彼女を守るべく、悪漢へと立ち向かう。
この作品はそんな作品なのである。時に舌の上で転がるように甘く、時に心を突き刺してくるかのように苦くて痛く。だが、ただ甘いだけではなく、苦きもあり。そして思春期特有の揺れ動くそれぞれの想いがこれでもかとそれぞれの内面に光を当て俯瞰的に描かれるからこそ、そんじょそこらのラブコメとは一線を画す面白さを持っているラブコメなのである。
歪で不器用、だけど優しい静流。そんな彼に、相談役である先輩の奏多はただ見つめ、紫苑は不器用に歩み寄り、そして泪華は彼を想いその心へと手を伸ばす。
譲れぬ想いと揺れ動く想いがぶつかり、見えぬ思いが水面下で揺らぐ。だからこそこの作品はここにしかない味がして面白いのである。
何処にもないラブコメを読んでみたい読者様。繊細な心理描写が好きという読者様にはお勧めしたい。きっと満足できるはずである。