さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は好きな人を監視したいと思うであろうか。好きな人の全てをずっと見守りたいと思うであろうか。
とある高校に通う全国模試一位にして、凄腕で名を馳せる天才プログラマー、紅(表紙)。彼女には気になる、というよりは好意を寄せる相手がいた。
その相手の名は空也。隣の席になったばかりの、明るく朗らかで絵を描く事が大好きな普通の少年である。
では紅はどう空也にアプローチしていくのかと言うと。彼以外の人間と話すのは苦手、だけど話す事も難しい。だからこそそのプログラマーとしての腕を無駄遣いした電子的ストーカーとでも言わんばかりの行いによるアプローチである。
時に空也の心拍数に合わせて自分のスマホが震えるようにしてみたかと思えば、空也のスマートフォンやスマートウォッチからデータをこっそり抜き取ってみたり。
「わたし、宮代くんのストーカーなの」
そう自負する彼女。しかし彼女は知らなかった事がある。それは何か?
それは空也は人の心が色で見えるという事、その中でも愛情の証である「赤」の色を忌避しているという事。そして、彼のすぐ近くにはもう一人、自分の同類であるとんでもない少女がいたという事。
あなたのことならなんでも知ってる私が彼女になるべきだよね
この題名は紅だけに当てはまるものではなかった。この題名に相応しいもう一人の少女、その名は二人の一個下の後輩であり空也の幼馴染である翠香。
空也から見てその名のように「翠」しか見えない彼女の心の本当の色、それは夕焼けよりもなお赤く熱い「紅」。空也と家族ぐるみの付き合いをしながら、彼の前で友達として振る舞いながら。彼女はずっと、空也の為に生きてきていたのだ。
色を隠したのは彼を傷つけぬ為、その為ならば殺したいほど憎い相手の所作まで覚え込み。
彼に友達以外を近づけぬ為、彼の事なら何でも知る為に交友関係を広げる為に文武両道の道を極めて。
「優しさに甘えているなんて、とんだ勘違いね、宮代くん」
それに気づかず、袋小路に嵌り闇雲に乗り越えようとする空也と止めようとする翠香、二人で深淵へと落ちていくはずだった二人を嘲笑うかのように、引き戻そうとするかのように紅は告げ。
「わからなければ、言ってくださいね。いくらでも出します」
「・・・・・・たとえ何年かかっても、絶対にあなたをわたしのものにする。絶対に、絶対に」
「あなたにとっての赤は、・・・・・・わたしの赤であればいいんです」
その言葉に強引に、だけど優しく背を押されるかのように。
自らの心をさらけ出した翠香は空也と同じ傷を自らに刻み、彼の心の弱さと脆さを殺さんばかりの勢いで、トラウマを刺し殺す言葉で。彼に愛を告げ、世界の温かさを教え込む。
彼女達の愛は重いにも程がある。間違っているかもしれないし歪んでいるかもしれない。だけどそこにあるのは確かに「愛」なのである。一人の少年を愛し、全部を知りたいと願い。時に共に深淵に堕ちてそこから二人で飛び出そうとするかの如き「愛」なのである。
すれ違いラブコメ? 確かにそうとも言える。だがしかしこの作品は本質的な「愛」、重いにも程があるけれど誰にも譲れぬ「愛」を描いた作品なのである。
重くてどこか苦いラブコメが好きな読者様、「愛」を描いた作品が好きな読者様は是非。きっと満足できるはずである。
そしてもう少しだけ、この作品の続きが読める事を願いたい次第である。