読書感想:冷たい孤高の転校生は放課後、合鍵回して甘デレる。

 

 人と関わることが苦手、誰かと喋っている時は僕は僕じゃない、そんな性分を抱えておられる読者様は画面の前に如何程おられるであろうか。そういう読者様がおられるのも普通の事なのかもしれない。何故ならば、人は千差万別、様々な形があるのだから。だが人は誰かと関わり続けなければ社会で生きていくことは出来ず、完璧に誰かとのかかわりを断つと言うのは、出来ないものなのである、のかもしれない。

 

 

 

「・・・・・・初めまして」

 

「ああ、初めまして」

 

一人暮らしの祖母を心配し、祖母に出された条件を守ると言う約束の上で一人暮らしをしている少年、空也。どこかじじむさい口調で話す彼の性格は、交流は不必要であると誰かと最小限しか接さず、他者には常に不干渉と言う人間嫌い的な捻くれた一面を持っていた。そんな彼のクラスに、一人の少女が転校してくる。その名はファティマ(表紙)。彼女もまた、人間嫌いな孤高の性格であった。

 

 転校早々そんな態度では、孤立を招かぬ訳もなく。だがそんな彼女を、いつもの不干渉という立場を捨てて空也は助ける。それは何故か。何故ならば実は彼女は、祖母の養子であったから。秘密の場所へ連れ出し、極力不干渉。そんな態度を取ってくれる空也は、ファティマにとっては得難いものであったのである。

 

お互いに人間嫌い、だからこそお互いの踏み込んではいけない部分は分かっている。何気ない告白から新たな関係が始まり、時に祖母に背中を押され何故か大正ロマンな服装で外に出てみたり。時にはファティマがツインテールの妹に扮してみたり、二人で料理をしてみたり。お互いに踏み込まぬ部分があるからこそ、それが何処か心地よくて。そんな時間が特別なものになるのに、もっとと望む気持ちが強くなるのは、当たり前の事であったのかもしれない。

 

「―――なにも、聞かないんですね」

 

だが、その思いは二人を振り回す。特別なのは分かっている、だけど踏み込んでいけない部分があるのも分かっているし、伝えられぬ思いもある。人間嫌いだからこその不器用さが、二人の間にすれ違いを招き。泣くファティマを前に、今度こそ思いを伝える為に。尊敬した祖父のような覇気をわずかに纏わせ、空也は勝負をかける。

 

「それでも俺は、お前が好きなんだ」

 

お互いに嫌な部分だってあるし、迷惑だってかけるかもしれない。けれどそれでも、この思いだけは譲れない。口下手だけど正直に、真っ直ぐに空也は言葉を届け。その果てに出るのは、この先を意識し望む言葉。それはファティマの心を揺らし、確かに新しい関係は結ばれるのである。

 

似た者同士だからこそのもどかしさと、どこか浪漫的な甘さのあるこの作品。ちょっぴりノスタルジックなラブコメが読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

冷たい孤高の転校生は放課後、合鍵回して甘デレる。 (GA文庫) | 千羽十訊, ミュシャ |本 | 通販 | Amazon