読書感想:孤高の暗殺者は、王女を拾い育てる

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問:復讐者と言えば?

 

答:テンカワ・アキト

 

さて、暗殺者が主人公と言えば角川スニーカー文庫の某ライトノベルが思い浮かぶかもしれないが、かの作品の主人公が転生者であるのに対し、この作品の主人公、ラグナス(表紙右)は普通に異世界出身の人間である。そしてとある職種の人間しか暗殺対象として選ばない。その対象とは? 奴隷商である。

 

何故奴隷商を狙うのか? その理由は奴隷商に連れ去られた生き別れの妹を探す為であり、自らの家庭を壊した奴隷商を纏めて殺し尽くす為である。

 

そんな孤高の暗殺者である彼が、いつもの殺しの中で出会った少女。妹に瓜二つな亡国の王女、トリア(表紙左)。

 

謎の術により最愛の姉達を自らの手で殺すという地獄を経験し心を壊した彼女には才能があった。それは何か。それはラグナスを越える暗殺の才能である。

 

一万人に一人といない、この世界に存在する二つの魔術系統の魔術に適性を持ち。未熟なれどその攻撃は無意識に急所を狙い、一度壊れかけたからこそ人の死に鈍感であり殺すことに躊躇が無い。

 

どう考えても暗殺者に向いているとしか言いようのない類まれなる特質を持つ彼女。しかし彼女に殺しをさせたくないと肝心な所からは遠ざけるラグナス。

 

暗殺者の師弟であり兄妹にも恋人同士にも似た関係の、何とも言い難い不思議な関係の二人は旅の道中、トルテに仕えていたメイドのルファナと合流し、トルテの復讐を果たすべく仇が巣食う王城へと向かう。

 

そこで明らかとなるのは、トルテに姉を殺させた全ての元凶である王子の昏き愛。

 

愛しているからこそ壊したい、傷つけたい。歪んだ独占欲が見せる歪んだ愛。

 

だがそんな愛をトルテはラグナスへの想いで跳ね除け、その思いに応えるかのようにラグナスは彼女達のピンチに颯爽と駆けつける。

 

「こいつ、俺の好きにしていいか?」

 

彼女達に最後の一線を越えさせたくない、だからこそ最後は自分の手で確実に。

 

この作品は復讐と怨嗟が交差する仄暗さ溢れる、ダークな魅力溢れるファンタジーである。そのダークさの中に、お互いに何も持たぬ二人が唯一の絆を結んでいく、一筋の温かさがあるのも確かであり、同時にこれから先彼等の旅路に大変な道が待っている事を示す背筋が冷えるような緊張感もある作品なのである。

 

暗殺者が暴れ踊るバトルを楽しみたい読者様、ダークで血が溢れるファンタジーが好きな読者様にはお勧めしたい。きっと満足できるはずである。

 

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