忖度・・・他人の心情を推し量ること、また、推し量って相手に配慮すること。但し忖度は時に誤解とすれ違いを生むという事は画面の前の読者の皆様もご存じであろう。
かつて大陸全土を舞台にした、十二の種族が相争い、ヒューマンを旗頭とする四種族の連合と、デーモンを旗頭とする七種族の連合がぶつかり合う五千年もの長き間、戦いが繰り広げられようやく和睦が結ばれたとある大陸。誰も知らない平和な時代が訪れ、今までの種族の中でのルールが条約により縛られ、誰もが新たな生き方を強いられる世界。
その世界に生きる十二種族の中の一つ、オーク族に一人の英雄がいた。彼の名はバッシュ(表紙左上)。彼こそは悪魔の王より賜った大剣を振り回し、幾多の戦場にて屍の山を築き上げた英雄である。
そんな彼には悩みがあった。それは何か?
それは英雄と言う尊敬される立場でありながら童貞であるという事。そう、童貞である。ドーのテーである。
戦場で取った首の数と産ませた女の数は同等の価値。戦いの中に生き、殺し、犯し、孕ませ、そして戦場に散る。その刹那的な生き方の申し子でありながら、誰もが既に童貞でない事を知らぬ程に戦いに明け暮れていた。故に気付いた時にはもう手遅れ。
しかし、そんなバッシュも妻が欲しかった。童貞を卒業したかった。ヒーローと呼ばれる彼も、女に初心で純粋不器用な一人の童貞だったのである。
そして彼は旅に出た。妻という大切な探し物を見つけに。旅が始まりすぐに再会した戦友のフェアリー、ゼル(表紙、バッシュの下)をお供として引き連れ。
二人が旅の途中、最初に立ち寄った都市で出会った新米女騎士ジュディス(表紙右下)。彼女はオークを強く憎む者の一人である。
それも当然、何故なら彼女の姉は戦場でオークに囚われ犯し尽くされたから。
酒場で事件の参考人として絡まれ、気が付けば人間の街を襲う謎の事件に首を突っ込む事となりお目付け役にジュディスがついてきて。
ここで発動するのが、主にバッシュへの忖度から発生するすれ違いである。
人間から見れば、彼は寡黙でミステリアス、だが底知れぬ力を持ち何か事情を持つ英雄。
しかしバッシュは単に妻を探しているだけである。意味深な態度も、ゼルに教えられた女性の気を惹く仕草をしてみただけである。
しかし、彼はどこまでいっても英雄であり、一本の剣なのである。
オークの一般的なイメージとは程遠い高潔な心を持ち、理知的な言動で周囲の目を惹き。
「今の指揮官はお前だ。俺は命令に従おう」
味方を出し抜き勝手に独断専行するヒューマンとは違い、例え異種族でもその命に従い。
「助けに来たぞ」
そして目を付けた女性のピンチに颯爽と乱入し、常識外の力で一瞬で戦局を逆転させる。
そう、間違いなく彼は英雄である。そしてこの作品は忖度が導く勘違いを積み重ねながら、結果的に世直しをしていく一人の英雄の英雄譚なのである。
だからこそ安心できる、笑える、そして燃えられる。だから面白いのだ。
要所要所が笑いに満ちた、ファンタジー世界の王道英雄譚が読みたい読者様は是非。きっと満足できるはずである。