読書感想:サンタクロースを殺した。そして、キスをした。

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様の中に聖夜に縁がある又はこれまであったという読者様はおられるだろうか。それはさて置き、もしサンタクロースが亡くなったら、クリスマスがなくなってしまったら貴方はどうするだろうか。

 

聖夜を控えた十二月初旬、それは既に街にイルミネーションが溢れ出し街が徐々に浮かれ出す季節。そんな中、先輩に振られた「僕」はクリスマスなんて無くなってしまえと街に佇んでいた。そんな彼に「少女」は声をかける。「クリスマスを消すことができます」と。彼女が持っていたのは、願いを叶えることができるという不思議なノート。

 

だけど、その願いを叶えるにはその願いを望まないという条件が必要だった。だからこそ、クリスマスを好きにならなくてはいけない。故に二人は疑似的な恋人となった。クリスマスを無くす為に。

 

始まる不思議な関係、その関係に名前を付けるのならばどんな名前が良いのだろうか。恋人同士、というには愛が無くて違う。友人、というのも少し違う。強いて言うならば、共犯者という名前が相応しいのだろうか。

 

そう、二人は共犯者同士だ。そして二人は、同じ痛みを抱えた同士でもあったのだ。

 

心に抱えていたのは人恋しさ、寂しさ。かつてとある歌でも歌っていた。一人じゃ寂しいから二人で手を繋いだ、と。だけど人恋しさ、寂しさという感情の本質は一体なんなのだろう?

 

何故寂しいのか? 自分の隣には誰もいないから? 何故人恋しいのか? 誰かに側にいてほしいから?

 

この作品の登場人物達により突き付けられるのは、まるで心を静かに侵し死へと静かに追い込んでくるかのような哀しくて切ない感情、その筈である。

 

しかし、寂しさと人恋しさと呼ぶには何処か異質な感情に見えるのは何故だろうか。そう見えてしまうのは何故なのか。

 

だけど、作品の紙面と文字を通して彼等は確かに伝えてくるのだ。理解できずとも伝われ、そう言わんばかりに押し付けて押し込んでくるのだ。

 

そして、その痛みの根底にあったのは生きづらさだ。この幸せな世界で生きにくい、生きづらさだったのだ。

 

誰かと誰かの間に成立している幸せと言う感情、そして繋がり。それが分からなくて弾かれるからこそ生きづらい。だけど、それでも生きていくしかないから例え破滅に陥っていくとしても、真っ直ぐに生きていくしかない。

 

だからこそ、僕と少女の出会いは偶然でありある種の必然、そして運命だったのかもしれない。

 

生きづらさを抱えて、だけど君と出会ったから繋がれて。だからこの世界を受け入れられた。

 

そんな二人を待っていたのはノートの残酷な真実と、未来へと繋がる微かな希望。

 

さびしんぼうのサンタクロース。クリスマスだから、泣いている」

 

二人の願いは確かにサンタクロースを殺した。その先でキスをした。だからこそもう少しだけ、この世界で奇跡を信じてみたい。

 

どうか画面の前の読者の皆様、この一巻で綺麗に纏まったこの作品を読んでみてほしい。彼等の物語を見届けた先、心に宿る名もなき思い。その思いを、彼等の純情で儚くて切ない、確かにそこにあった青春を言葉にしてもらいたい。そう切に願う次第である。

 

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