読書感想:妹はカノジョにできないのに3

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:妹はカノジョにできないのに2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 妹になりたいと言う晶穂の願い、カノジョになりたいと言う雪季の願い。二つの願いの狭間、そこに立たされている春太という状況は画面の前の読者の皆様はもうご存じであろう。二人のヒロインの間で感情が行き来し、何方かが立てばもう片方は立たぬ。正に薄氷の上の綱渡り、と言ってもいいかもしれない。だが、今巻はその綱渡りが更に過酷さを増していく巻なのである。どうやらこの作品における神様は、残酷な悪戯が好きらしい。神は何処まで彼等を試す、そう言いたくなるような巻なのである。

 

 

「あ、カノジョになるって話は本気ですからね」

 

雪季の早すぎる独り立ちに反対するべきか、もやもやとした思いを抱える春太が自問自答する中、そんな事は関係ないと言わんばかりに雪季はきっちりと宣言し、その願いをかなえるために行動を始めて。前巻の宣言の中で垣間見た「女」としての顔がちらつき、春太の心は揺れ惑う。

 

そんな中でしきたりにより都会に出てきた透子の案内をしたり。未来に向けて進む為に、元カノらしき存在である涼風との関係に落としどころを見つけたり。

 

だが、それだけではいられない。クリスマスに向けて時が少しずつ歩みを速めていく中、衝撃的な話が晶穂の母親である秋葉から齎される。それは自分の母親についての死の真実。秋葉がずっと抱えていた、其処に纏わる心の傷。

 

更には、馴染みのカフェを貸しきりにして行うクリスマスパーティの場で、突然晶穂がスカウトを受け。唐突に現れた進路、ひいては未来についての問題が、彼等の恋路に影を落としていく。

 

 そう、「未来」である。未来、それはどうなっているのか分からないもの。そして誰がいなくなっているのかも分からぬもの。だからこそ、未来に不安がある者は、遺していく事になるだろう人に大切な何かを託していく。貴方だからこそ、託せると言わんばかりに。

 

「あたしには、お兄ちゃんだけになっちゃったな」

 

そして春太の目の前で一つ、まるで最後の一葉が風に乗って流れるように。命の灯が、最後に一瞬だけ輝いて消える。春太に自分の大切なものを託して、後はお願いと言い残して。

 

それは流されるばかりの自分が見つけ出した、大切な守るべきもの。だが、その日々にはいつか終わりが来ると知ってしまったもの。その決断は、その思いは。本格的に動き出した三角関係に何を齎していくのか。

 

日常のほのぼのと温かみの中、切り裂くようにシリアスが駆け抜けていく今巻。シリーズファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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