読書感想:シンデレラは探さない。2

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前巻感想はこちら↓

読書感想:シンデレラは探さない。 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻を楽しまれた読者様が画面の前に折られると信じ敢えて言うが、前巻を楽しまれた読者様にとっては今巻の表紙を飾る彼女は一体誰か? と聞きたくなるかもしれない。では、彼女は一体誰なのだろうか。その答えは一つ。彼女は今巻のヒロインであり、新たな登場人物である陣と礼の後輩、宮子である。

 

礼を象徴する物語は「シンデレラ」。では宮子を象徴する物語は一体何か。それは「浦島太郎」。時代や解釈によって様々なエンディングが存在する、浦島太郎と乙姫様の恋のお話である。

 

そして、今巻の実質上の主役は宮子である。彼女の複雑な家庭事情に焦点を当て、過去に立ち止まってしまった彼女がどう進みだすかを描いていくと共に、彼女の目を通じて陣と礼の二人の関係を描いていくと共に、彼女の問題に関わる事で二人もまた成長していく巻である。

 

礼の心の音を聞いた梅雨の季節。その先に梅雨が明け虹がかかり。もうすぐ暑い夏の季節がやってくるという中、二人で登校するようになり少しだけ距離の縮んだ陣と礼。

 

そんな中、陣は困っていた一人の少年を助けた事を切っ掛けに、彼の姉であった宮子とかかわりを持つ事になり。必然的に陣の側にいる礼とのかかわりを持つ事となり。気が付けば、三人で過ごすようになり。何処か変わった形のあたたかな関係は始まっていく。

 

宮子は知る、陣の中に秘められた想いと礼の中に秘められた想いを。そして彼女は見つめ直す事になる、自分の家族の歪な関係を。

 

遠くから見つめていれば、きっとこのままでいられるけれど。だけどずっと、このままではいられない。だからこそ停滞を越え、歩き出さなきゃ始まらない。

 

それはまるで、浦島太郎が玉手箱を開けるかのように。永い停滞の夢から覚めるように。誰の心の中にもある玉手箱。それを開ける事が出来たのなら、きっと何かは始まるから。

 

「わたし、陰からずっとあなたのことを見ていたのよ? いくらだって待っていてあげる。だって待つのは得意だから」

 

玉手箱を開け駆け出していく宮子を見、自分の中の玉手箱、それを開ける事を妨害する、乗り越えるべき敵を見つめ直す陣。彼に礼は告げる。いつかの時を待っていてあげる。だって待つのは得意だから、と。

 

じれったくてもどかしい。けれど第三者の目線から見るからこそ、まるで冬の朝のココアのような甘さと温かさは更に深まり、少しずつ二人の関係は深まっていく。それは自分達だけではなく、周りの者達の物語に関わったからこそ。

 

前巻を楽しまれた読者様、少し変わった、けれど根っこは王道なラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。