読書感想:千歳くんはラムネ瓶のなか3

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月はいつもそこにある。誰かを照らす月はいつもそこにある。だけど、本当に月は誰にとっても同じものなんだろうか。

 

進路、そして未来の夢。中学生くらいまでなら目を背けていても問題はなかったもの。だけど高校生になってくると、どうしても大切になってくるもの。

 

進路を探し揺れる朔。そして同じように未来への道と今の場所の間で揺れる一人、明日姉こと西野明日風。

 

まず初めに断言しておこう。今巻は徹頭徹尾、千歳朔と西野明日風、この二人の為の巻である。そしてこの巻を読み終えた後、貴方は明日姉派に鞍替えしているかもしれない。

 

それほどまでに、明日姉と呼ばれ今まで朔と付かず離れずの距離を保ってきた彼女へとスポットライトを当てる巻であり、彼女の心を明らかにする巻である。

 

そう、彼女だって一人の女の子なのである。

 

夢を叶える為に行きたい、東京と言う未知の世界。だけどそこへ行くためには、朔のいる地元と言う名の安住の世界を飛び出さなくてはいけないのだ。

 

彼に告げられるのは別れの言葉。その言葉の真意に揺れる朔の背中を押すのは彼女。

 

「立ちはだかる壁を正面から力尽くで蹴飛ばすの、ぶっ壊すの」

 

「男だろ、千歳朔だろ」

 

そう、悩む必要なんてない。何故なら彼のやり方は、いつもそれでありそれでここまで来たのだから。

 

明日姉と共に向かう東京と言う名の未知の世界。そこで見たのは、彼女の未来と別れる予感。

 

明日風と共に歩いて進んで。そして彼女の背を押して。だけど明日風もまた、朔の背中を押そうとするのは何故か。

 

それは、完璧に見えた朔の脆い一面を彼女だけが見抜いていたから。物語を編むという夢があるからこそ分かったから。

 

語られたのは千歳朔という、一人の不器用な少年の昔話。誰よりも孤高である為に、自らにヒーローであれと課してしまった、月に憧れるビー玉のお話。

 

だけど明日風はそれでいいといった。それでこそ君はヒーローなのだと。どんな月もビー玉も、誰かを照らす月になるという事を。

 

いつから勘違いしていたのだろう、知らずにいたのだろう。朔というヒーローの本心を、本当の姿を。それは私達がチーム千歳のように、彼という月に憧れ導かれていたからなのか。

 

そう、憧れるだけでは知る事は出来ない。だけど明日風はそんな彼を肯定できるから。

 

悠月達が彼に憧れ追いかけるヒロインだというのなら。明日風だけは彼を抱きしめてあげられてその手を引いて歩いていける、彼にとっての月になれるヒロインなのだろう。

 

「頑張れ、明日姉。頑張れ、頑張れ、負けるな」

 

彼女が肯定していくれたからこそ。朔は朔としていつも通りに背を押せた。

 

そして、「君」にさよならを。

 

そう、これは大人になる為にいつか通り過ぎないといけない通過儀礼を潜り抜ける巻であり、幼き二人が全部曝け出して、千歳朔と西野明日風としてもう一度初めから始まる為に必要だった物語なのである。彼女が彼の月になると決意して、一歩踏み出す巻である。

 

さぁ、画面の前の読者の皆様も是非ともこの作品に飛び込んでほしい。きっと貴方を感動が待っているはずである。

 

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