読書感想:きのうの春で、君を待つ

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突然ではあるが画面の前の読者の皆様、貴方は疎遠になってしまった友人はいるだろうか。私はいる、会いたい人がいる。

 

舞台は海に浮かぶ離島、袖島。そこにやってきたのは東京での生活に嫌気がさした少年、カナエ。そして彼がこの島で再会するのがかつて共に過ごした幼馴染、あかり(表紙)である。

 

そして彼女こそが、この作品の鍵となる存在である。

 

「君を待つ」。題名に込められた想いはカナエがあかりを待っている想いか、それともあかりがカナエを待っていたという想いか。

 

唐突にカナエが巻き込まれた、四日後に意識が飛ぶという不可解な現象。その先で知ったのはかつて憧れた存在、あかりの兄である彰人の死。彼女から告げられるのは、午後六時ごとに一日ずつ時間を遡り真実を探さなければいけないという事。

 

真実をあかりと共に探す中、要所要所で触れられるのはあかりの想い。そして彼女の家族の真実。

 

置いていかないで、一緒にいきたい。

 

虐げられ理不尽な虐待に合う中、彼女は必死に彼に手を伸ばしていた。

 

行かないで。その一言が言えなかった、その後悔が彼女の心を痛めつけ。だけどまた彼に会えた。希望が彼女の心を照らして。

 

擦れ違う過去と未来。全ての真実が繋がったとき選んだのは何も変えない、未来を変えない事。

 

だけど、それではいけないと心が言うから。

 

「もう、どこにも、いかないでね」

 

貴方しかいない、そう縋るあかりの手を振りほどき未来を変えて。

 

「私を、幸せにしてください」

「当たり前だろ」

 

その先で結んだ、これからずっと、未来への約束。

 

そう、この作品は繰り返す時間の中で絶望を抱えた二人がもう一度手を繋いで絆を繋ぎ直し、一緒に未来へと歩いていく。残酷な世界の中に確かな温かさのある、心がじんわりと温かくなる、不思議で何処か重厚な読み心地のある作品である。

 

一冊で読み切れる、重くて温かい物語が読みたい読者様は是非。きっと満足できるはずである。

 

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