突然ではあるが画面の前の読者の皆様、貴方は星に憧れがあるだろうか。いつの日にか、星を巡る不思議な乗り物で星々を巡る旅をする、そんな夢を見た事があるだろうか。
ガガガ文庫で徐々に不動の人気へと上り詰めた、東西冷戦時代をモチーフに描かれた宇宙開発に挑む者達を描くシリーズ、月とライカと吸血鬼。そのスピンオフとして声劇の台本を再構成したのがこの作品である。
舞台は極東、日本。その片隅の町で宇宙に夢を見る孤独な少女、ミサ。彼女はお祭りの夜、建設途中の天文台で謎の転校生、アリアへと連れられ気付いたら宇宙へと旅立っていた。
星を巡る不思議な列車、銀河鉄道。巡るは月に火星、土星を経てもっと先の星々へ。
だけど、読んでいくにつれて何か心に過るこの違和感は何なのか。それはきっと、私達が知る星々の姿と彼女達が巡る星々の姿があまりにも異なっているからなのだろうか。
火星の赤は、かつて争いの中で流れた血の色。
木星にまつわる神話は、誰かが嫌った略奪婚。
土星には耳があってどこか歪で。
そして天王星から先はどこか儚げに、まるで何処か不確かな姿を見せる。
そう、彼女達が見つめる星々のお話は、何処か子供の想像みたいな荒唐無稽なお話だった。
何故、星々はそんな姿を見せるのか。
その真実は只一つ、それはこの夢のような時間が文字通り「彼女」が想像し願った未来だったからなのだ。
喧嘩別れの中に告げられなかった真実と後悔を抱え、闘いの中でミサと旅をすることを願った彼女。彼女の夢が流れ星と共にミサへと届き、彼女を一夜の邯鄲の夢へと誘ったのだ。
「星空の彼方にいるわたしを探して。約束よ」
突然に訪れたお別れの時、彼女が願った只一つの願い。
「願いごと、絶対に叶える」
願いを受け取ったミサが決意し空へ放った、再会の誓い。
そう、この作品は一夜限りの夢の時間。一度きりの御伽噺なのだ。だからこそ本編とは違う不思議な味と、本編とも共通する人の心の温かさがいつもとは違う面白さを見せてくれるのである。
どうか画面の前の読者の皆様もこの不思議な御伽噺を読んで、いつかの未来、星々の海の中で二人が再会するのを願っていただきたいものである。