突然ではあるが画面の前の読者の皆様、見た事の無い景色を見れる旅はお好きだろうか。お好きな読者様に一つ問おう。もし、いつ死ぬかもわからぬ終わりかけた世界で急に旅をする事となったら、貴方ならどうするだろうか。
人が突然結晶となって消え、世界が白い砂漠へと呑まれゆく。現代からそんな滅びかけたどうしようもない世界に迷い込んでしまった少年、ケースケ(表紙左)。そんな彼がとある場所を目指して旅を続けるハーフエルフの少女、ニト(表紙右)と出会いともに旅を始めるのが趣旨であるのがこの作品である。
この作品が巧みな点としては前作であるイセコーこと「放課後は、異世界喫茶でコーヒーを」シリーズとは大分色を変えながらも、どこか優しくまるで染み入るような温かさが、旅を通して出会う独特の情緒あふれる色彩豊かな景色と共に存在しているという事ではないだろうか。
この世界は確かに滅びかけている。だけど、滅びゆく世界はそれでも美しく、生きている人もまだいる。
妻への思いを抱え墓を守りながら暮らす職人のおじ様がいた。
記憶をなくしながらも想いを無くさず、遅れてきた新婚旅行を楽しむ夫婦がいた。
魔女の名を背負いながら人々を見つめる、優しい女性がいた。
そう、こんな世界でも彼等は生きている。自分の中に生きる理由を抱えいつ滅びが来るかも知らずとも、毎日を必死に生きているのである。
そんな彼等との出会い、そしてニトとの出会い。
幾つもの出会いがいつの間にか掻き消していたのは、ケースケの中に気付かれずに燻っていた諦念。
あの空っぽの日々に帰りたいとは思わなかった。いつの間にか未練は消え、この世界で生きていたいと願っていた。
「だからきみは、ぼくのそばにいてほしい」
だから希望を無くした彼女に必死に手を伸ばしていた。
「また明日ね」
この何気ない言葉に込められた意味こそが生きる意味と知れたから。
さよなら滅びゆく異世界、またきて未知なる明日。
これは滅びゆく世界で出会った何かを無くした主人公とヒロインが出会い、多くの出会いと別れを繰り返しながら生きていくお話。
どうか画面の前の読者の皆様、頁を開いて彼等に会いに行ってほしい。きっと大切なものが見つかるはずである。