読書感想:好きな子のいもうと

 

 さて、妹と書いていもうとと読む訳であるが言葉の意味は画面の前の読者の皆様には説明はいらないであろう。妹、つまりは年下の血縁の女の子な訳である。そんな妹と言う存在は、サブカルの中ではどう描かれる事が多いだろうか。例えば姉妹がヒロインとなる場合。主人公を巡って取り合いになる事もあるし、その果てに負けヒロインになる事だってあるだろう。

 

 

さてそんな話はとりあえず置いておいて。この作品は真面目な優等生、渚(表紙右)と不真面目な自由人、海望(表紙左)の間。心優しくも何処か繊細な女の子、結叶(表紙中央)の心が揺れ惑う、三角関係で百合なお話なのである。

 

「もう一ヶ月経ってるんだし、そろそろ切り替えなよ」

 

渚とは中学生時代からの付き合いで、共に同じ高校へ進学し。日々の触れ合いの中で同じ気持ちであると信じて。しかし二年生に上がった時、思い切って告白したら見事にフラれてしまった結叶。

 

「私がお姉ちゃんへの想いを、忘れさせてあげます」

 

そんな彼女と、友人の妹と言う関係で友人である渚。彼女は察する、結叶が傷ついているのを。彼女が提案したのは、自分を姉の代わりにするというもの。頼ってくれていいんですよという彼女の中に感じるのは想い人の面影。ちょっとだけ付き合って欲しいという方向性に落ち着いて。

 

「結叶は私のこと、まだ好き?」

 

勉強会、渚が問いかけてくるのは謎の質問。くすぶり続ける恋心は揺らされるも、気まずい沈黙に答えを返す事は出来なくて。

 

「先輩が、あまりにも辛そうだったので」

 

だけど彼女の傍に居る友達らしき子に嫉妬してしまう。恋人でもないのに。そんな結叶に渚はキスをしてきて。変だと思って言いたいのに。気が付けば坂を転がり落ちるように、頷いてしまう。

 

「先輩は、そのままでいてください」

 

渚が結叶に与えるのは、愛情。 そして肯定。 諦めきれぬ恋心を後悔しようとしていた彼女へ、そのままでいいのだと。 そんな思いを受け、渚との何気ないやり取りも先に海望と先にしていたと気付き。更には優秀な姉と比べられいないものとして扱われている海望の本音に少しだけ迫り。

 

「踏み込んでいいって、言ってよ」

 

いつの間にか臆病を一歩超えていた、彼女の為に。その心に踏み込みたい、寄り添いたいと思っていた。その前進は渚のためではなく、海望のために。

 

「楽しいよ、とっても」

 

そうして近づいて、語られるのは海望の心。最初は見た事無いタイプと言う興味、だけどいつの間にか純粋に好きになっていた。でも渚と両想いと気づいたから諦めようとした。でも諦めきれなかった。その目の前で、渚は自ら恋心を選ばなかった。周囲の期待という彼女からすればつまらないものを選んで。

 

「でも先輩のことは渡さない。先輩の恋人には、私がなる」

 

だからこそ決意した。己の全てを武器にする事を。絶対に渚には渡さないと言う事を。

 

燻り続ける思い、昏くも燃え上がる思い、そして向き合わなかった思い。三者三様の思い巡る、切なく苦しく、だが繊細で尊い百合があるこの作品。心情描写に心揺らしたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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