釣りバカ日誌、放課後ていぼう日誌。今あげた二つの漫画作品に共通する要素は、画面の前の読者の皆様には言わずともお分かりであろう。そう、「釣り」である。釣りよかでしょう。様のようなyoutuberも存在する、休みの日に海の堤防を見に行けばきっとやっている人が存在するそんな趣味活動である。
だがしかし、画面の前の読者の皆様の中には釣りと言ってもどうすればよいのか、聴かれても分からない読者様もおられるであろう。それは仕方のない事かもしれない。私だって詳しくない。川釣りと海釣りの違いが、恥ずかしながらまったく分からない。
そんな趣味活動を少女達が全力で楽しんでいるのがこの作品であり、そこに心の再生を絡めて描かれる作品なのである。
些細な切っ掛けで今時の手段の一つであるSNSでのイジメを受け、それを相談する事も出来ず。結果的に父親の転勤により関西の学校へと転校する事になった少女、めざし(表紙左端)。
「めざしって名前、あれほんまなん?」
「これは運命やでッ! めざしちゃんッ!」
もう失敗しないために、仮初の笑顔を張り付けて。だが転校初日。彼女の名前を聞いて目を輝かせて接近してきた少女、椎羅(表紙左から二人目)との出会いが彼女にとっての運命の出会い、世界の始まりとなる。
関西人特有の距離感の詰め方とノリの力で、あれよあれよと言う間に引っ張られ。気が付けば彼女が会長を務める同好会、「アングラ女子会」に入部する事になり。
勝気な副会長の明里(表紙右から二人目)、いつも冷静な凪(表紙右端)から何だかんだで歓迎され。気が付けば道具も揃い、めざしは海釣りの扉を開いていく事になる。
今まで知らなかった世界、今までそんな関わり方をしたことのなかった人達。関西特有のボケとツッコミの会話劇の中へ巻き込まれるうち、自然と馴染んでいき。いつの間にかこの日常が当たり前になっていく。
だが、椎羅達は気付いていなかった。言っていなかったから当然かもしれないが。それは苛めを受けて傷ついためざしの心がどれだけ傷ついているのか。そして彼女の地雷が何処に埋まっているのかという事を。
彼女達にとっては日常の延長だった何気ないドッキリ、だがそれがめざしの心の傷を抉る事となり。感情的に吠え、めざしは彼女達から距離をとる。
唐突な彼女の反応に戸惑う椎羅、心を再び閉ざそうとしてしまうめざし。
「お前はもう、ウチらの仲間やねん」
だが、今までの人達とは違った。強引なまでの勢いでやってきた明里は否定ではなく肯定を伝え。そこへ飛び込むのは椎羅が倒れたと言う急報。
ここで立ち止まっていては、きっと今まで通り。
「私はもう失敗しない」
だけど、今は。失いたくないものが、大切なものがすぐそこにある。だから、受け止めるだけではなく踏み出す。もう一度向き合い、己の心を伝えぶつけ合う。本当の意味で分かり合う為に、取り戻す為に。
「みんなは、私の大切な友達です」
この作品は釣りの魅力と、年頃の少女達の青春の輝きが溢れている物語である。そして同時に、傷ついた少女の再生譚でもあり、彼女達の群像劇でもある。
だからこそ、この作品は根底に明るさがあり。だからこそリアルな苦しみがある中にも泥臭くほろ苦く、けれど温かな面白さがあるのである。
群像劇的な青春が好きな読者様、釣りに興味がある読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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