読書感想:僕たち、私たちは、『本気の勉強』がしたい。

 

 さて、人生変えたきゃ東大へ行け、というのはどこぞの有名な漫画の台詞であるが、東大と言うのは我々一般人からすればあまり馴染みのない、天才揃いの世界と言う印象しかないのかもしれない。が、しかし。東大合格者の話を聞いてみると、決して元から頭が良かったわけではなく、効率的な勉強方で合格して見せたという体験談も多く聞かれるものがある。だが、結局のところ「本気の勉強」をしなければ、東大どころか望む大学の何処にも届かないのが当たり前なのである。

 

 

日本の何処か、片田舎の町。いつまでも夢を追うばかりという、何処かの連続テレビ小説で見たような父親を持つ受験生、正太。夜の仕事で家計を支える母親から常に「分相応」という言葉を言い聞かせられて育ったことで、常に分相応を意識し、予習を欠かさぬ事で「真面目君」と呼ばれる日々を過ごしていた。

 

 多くを求めぬ、分相応でいい。自分の可能性を押し込め窮屈な日々を過ごす彼にとって、誰の目もない夜という時間は自由になれる時間。誰にも邪魔されぬ、何をしても自由な時間。そんなある日、ひょんな事から夜の教室に侵入した事で、彼の夜の時間は変化を始める。

 

誰もいない筈の教室で出会ったのは、級友でもある灯(表紙)。学校ではいつも寝てばかりなのに、常に学年トップの成績を持つ、「深窓の眠り姫」と呼ばれる少女。

 

「本気になってやろうと思えば、できる」

 

才能を持つ側の彼女が語る事情と、まるで予言のような東大に合格するという言葉。その彼女から手を差し伸べられ、彼女への反発心から再び夜の教室を訪れ。彼女はまるで我が意を得たりと言わんばかりに勉強の本質を語り、彼の反論を一つずつ説き伏せ。まるで予言と言わんばかりに明日に迫った小テストについて助言を授け。その助言の通りに正太は満点を取って見せる。

 

 それでも、彼女の事は何となく我慢ならない。自分の時間が奪われるのが我慢ならぬ。でも後悔はしたくない。だからこそ、自分には才能が無いと証明して見せると。彼もまた夜の教室の仲間に加わり、新たな勉強の日々が幕を開けるのである。

 

灯から教わるのは勉強の方法、正に目から鱗な勉強の見方が変わる事ばかり。そして夜の町へ繰り出し、かつての級友である中退生、美空と出会い。彼女の実家である塾を見下した発言をした級友を見返す為、定期考査へ全力で挑んでいく事になったり。

 

 時に学び、時にぶつかり、時に笑い合い。いつの間にか夜が孤独ではなくなっていく。自分の押し込めていた可能性が、殻を破り芽生えていく。世界を知ることが、もっともっとと世界を求め、更に見識を広げていく。

 

「君の努力はきっと報われる。だから、頑張れ」

 

灯のそんな言葉に、心動く、訳もない。何故なら彼等の関係は間違った時間から始まったから。そもそもが間違えている、けれどそれでもいいと許容したから。正論なんて自分で決めると、押し付けられた答えを超えていく。

 

「今度は俺が夢を追う番だって」

 

 そう、もう「分相応」なんて言葉はいらない。閉じ込めていた夢が叫ぶ、もう彼は変わってしまったから。だからこそ彼は一歩踏み出し、母親へと毅然と告げる。今度は自分が夢を追いたい、だから応援してほしいと。

 

この作品、何と言えばいいのだろうか。昨今のラノベ界からすれば異端、と言えるだろう。だがこの作品には、正に青春の一瞬の煌めきが、この時間にしかない輝きが込められている。だからこそこの作品は正しく「青春グラフィティ」、その面白さが真っ直ぐに出ているのである。だからこそこの作品にしかない面白さが確かにあるのである。

 

自分の世界を広げてみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

僕たち、私たちは、『本気の勉強』がしたい。 (MF文庫J) | 庵田 定夏, ニリツ |本 | 通販 | Amazon