読書感想:白き帝国1 ガトランド炎上

 

 さて、戦記ものと言えば、と画面の前の読者様は聞かれて何の作品を連想されるであろうか。ラノベにおいては中々、あまり見かけぬかもしれぬ戦記もの。実際、私も有名どころの戦記ものと聞かれて、数作品しか連想できない次第なのだが。その理由と言うのは何故なのだろうか。やはり戦記もの、というものの面白さを決めるのは設定の妙、作り込まれた世界観こそが面白さの肝であるからして、その作り込みが中々大変であるから、だろうか。

 

 

しかしこちらの作品の作者である、犬村小六先生をご存じの方も多いであろう。飛空士シリーズ、やがて恋するヴィヴィ・レイン、プロペラオペラ。数々の魅力的な戦記ものを手掛けられてきて、その作り込まれた世界観と、魅力的な登場人物達で我々読者を幾度も魅了してきた、かの先生。その新作が今作品であり、集大成と言う謳い文句も、まぁ納得な魅力に満ちているのだ。

 

頭部にネコミミを持つミーニャ族や、七都市同名、四都市協商といった様々な種族、勢力圏が乱立し争いの絶えぬ葡萄海という場所。ひとりめの救世主「八岐」と呼ばれた人物が暴虐の限りを尽くした魔王、ルシファーと刺し違え、仁、義、礼、智、悌、忠、信、考、悌という文字を宿した宝珠となって世界に飛散し、聖珠を得た継承者は世の理を得る力を得る世界で。いずれ、現れる二人目の救世主。全ての聖珠をその身に全て取り込んだ者が現れる。

 

だけどそれは、まだ遠い未来。そこに至るまでの歴史の中、葡萄海の片隅、ミーニャ族の住まうガトランド王国で。第二王子であるトト(表紙左)、第二王女であるルル(表紙中央)は敵対している黒薔薇騎士団から人質として送られてきた少女、アルテミシアを家族として迎え。笑わず心を閉ざした彼女と共に生活をする事となる。

 

「やった! みんなで作ろう、『白き国』!」

 

 

傲慢な兄である第一王子、ガガ。視覚障害と美しい歌声を持っている第一王女、シュシュ。ガガの私兵である飛行士、ノアと整備士であるレオナルド。アルテミシアの専従騎士であるラギー。幾多の者達との交流の中、少しずつ笑顔を見せて心を開いていくアルテミシア。トトが語るのは、全部の色を合わせた「白き国」。人種の垣根もないそんな国は、正に夢物語、大言壮語。子供らしい無邪気な夢。その夢の元、子供達は纏まろうとしていた。

 

 

・・・・・・しかし、ここで忘れてはいけぬ。あの犬村小六先生の作品であるのだこの作品は。その作風は容赦がない。単純に言ってしまえば、命の価値が軽すぎる。そしてもっと言ってしまえば、一巻で起きる展開は。どん底までの転落、なのだ。

 

「バケモノのお遊戯に、半年付き合ってあげただけでも感謝しなさい」

 

心を許した彼女の裏切り、最初から彼女は敵。踏み込まれたところでその刃が牙を剥き。戦火に晒された者達の命は、こうも容易く奪われる。

 

「いかなるとき、いかなるところ、万人ひとしく敵となろうと、あなたを守る楯となる」

 

だがそんな戦火の中でも生まれるもの、新たな誓いがある。

 

「おれとともに新たな理想の旗を掲げ、無謀極まりない戦いに挑もうとするものは、ここにいるか」

 

そして受け継がれる願いが、意志がそこに在る。それがある限り、死なぬ、終わらぬ。ここから始まるのである。全てが敵の、新たな戦いが。

 

正に重厚、圧倒的。心震え突き刺してくる戦記ものを読みたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。