読書感想:性悪天才幼馴染との勝負に負けて初体験を全部奪われる話

 

 さて、「好き」という言葉は愛の言葉として使われるものであり、現実世界でもラノベにおいても当たり前のように使われる言葉であるが。「好き」という言葉の対義語、とは何であろうか。「嫌い」であろうか。それは違うかもしれない。「嫌い」、というのは相手に未だ思う所がある状態である。相手の事を考えている、という事である。では本当の意味での対義語とは何か。それはきっと、「無関心」であるのかもしれない。相手に対し何も関心がない、思う所がない。それがきっと、本当の意味での対義語なのだろう、私はそう思う。

 

 

さて、何故そんな前振りから始めたかと言うと。この作品は、「嫌い」同士である二人の、一種の尊い百合的なお話なのであるからだ。 ある意味歪なように見えて、実は深いところで繋がっている、そう言えるかもしれない二人のお話なのだ。

 

「悔しかったら勝ってみたら。無理だろうけど」

 

平凡な負けず嫌い、努力家な言ってしまえば普通の少女、わかば(表紙左)。彼女の幼馴染、小牧(表紙右)は文字通り何でもできる、メアリー・スーかと言いたくなるタイプの万能の天才。既に完成している彼女の事は、人生の三番目くらいに嫌い。 想い人を取られたと言う過去の一件以降もそれはまぁ、あまり変わらなくて。そんな中、いつもやっている何気ない勝負の中、尊厳を賭けて勝負する事となって。努力はしたけれど結局勝つことは出来ず。ファーストキスという操を、わかばは奪われてしまう。

 

 

まるで誘う様に、上から見下すように。自分だけが知る顔で。カラオケの点数勝負に始まり、雨が降るかの予想と言う何気ない勝負まで。その全てで、まるで世界が小牧に味方していると言わんばかりに。どんどん敗北が重なり、添い寝からデート、更には「好き」という言葉まで。大切にしたかった「初めて」を、まるで一つ一つ、いっそ粗雑に取り上げるように。小牧はわかばから全てを取り上げていく。

 

わかばの尊厳は、わかばの全部は、私のものなの」

 

「でも、こんなに関わってるのに、何も気にしない、知ろうとしないなんて無理に決まってるじゃん」

 

 

その最中、小牧はわかばの所有権は自分にあると、彼女が友人と触れ合うのにすら嫉妬し、自分が独占しようとし。わかばもまた、嫌いと言いながら彼女の事を知りたいと、迫ろうとする。拒まれても、めげずに。

 

「やっぱり私、梅園のこと嫌い。大っ嫌い。他の誰が好きって言っても、私は梅園のこと嫌いだから」

 

「私だってわかばのこと、嫌い。世界で、一番」

 

 

その根底にあるもの、それは真っ直ぐな思い。わかばは小牧が完璧でないと知るからこそ、彼女を人間に押しとどめるために嫌いと言い。小牧は、彼女の事をこれでもかと愛するからこそ、嫌われ憎まれ拒まれ、傷つけることで彼女の一番として心を奪う為に。「嫌い」という言葉で、二人は繋がっているのだ。

 

はた目から見れば邪道、歪んでいるように見える、かもしれない。しかしその根っこは真っ直ぐ、正道な思いで繋がっている。だからこそこんなにも心をかき乱されるのだろう。

 

そんな、心に刺さって引っかいてくるような情緒があるこの作品。心掻きむしられたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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