読書感想:凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ1

 

 さて、力を持ってはいけない、というより持たない、持たせないほうが良い人間とはどんな人間であろうか。愚者、に持たせてはいけないかもしれない。きちんとこちらが制御できる愚者であるなら、まだいいかもしれない。だが制御できぬ愚者、というより無鉄砲な者には与えてはいけないのかもしれない。ではこの作品の主人公である普通の青年、只人(表紙左)は愚者なのか。その部分は是非に画面の前の読者の皆様の目で見届けて欲しい次第である。

 

 

「バベルの大穴」と呼ばれるダンジョンが存在し、かのダンジョンの中では「怪物」としか形容できぬ存在が跋扈するとある現代世界。「52番目の星」と呼ばれる最強の異能者、アレタ(表紙右)の補佐に日々努め、周囲の一部からは腰ぎんちゃくと揶揄されながら。そんな事は気にしないと言わんばかりに彼は日々、アレタに時に睨まれたりしながらも気のいい仲間達と時にバカ騒ぎをしたりしながらも。日々探索に励んでいる只人。

 

「お前たちは嵐を敵に回すことになる、と」

 

「彼は、何かがおかしい」

 

 その裏、彼も知らぬその裏で。アレタは只人に執着にも似た感情を見せ、彼女に心酔する探索者、ソフィは彼に警戒を抱いていた。ごく一部の者だけが気付いていた。彼が凡人、と呼ぶには不釣り合いであることを。彼は何かを秘め隠しているという事を。

 

その気づきは間違いではない。物語が始まる一月前、即時撤退が推奨される「耳の怪物」なる怪物との戦いを生き延びていた只人は「腑分けされた部位、耳の力」という力の一つである「攻略のヒントを聞く異能」を得ていた。時に嘲笑うかのようなヒントしか寄越さぬ、自分に忠実ですらない使いにくいにも程があるこの異能。しかしこの異能は、諸刃の剣であるらしい。自分の夢の中に現れたガス状の男の導きに基づき、彼はこの力を乗りこなす為の力の欠片を手にし。人間の特徴の一つである取り込む事で進化する力を知らぬ間に発揮し。彼の知らぬ所で、異能は深化の兆しを見せていき。歓楽街のお座敷ラウンジのナンバーワン、雨霧にも興味を抱かれていく。

 

そんな中、いつもの探索の中。アレタが突然ダンジョンの異変に飲み込まれ離ればなれとなり。迫りくるゾンビを跳ね除け辿り着いた先、異能を暴走させたアレタと激突する事となってしまう。

 

「んだよ、出来るんじゃあねえか」

 

自分の事を忘れ暴走する彼女、彼我の力の差は絶対的。凡人でしかない自分に勝ち目は、ある。聞こえる声の警告も知った事かと言わんばかりに彼は、バッドエンドの方向へと踏み込む選択肢を決めるのだった。

 

正しくアウトロー、何処か泥臭い面白さのある今作品。作者様の作品が好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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