「能ある鷹は爪を隠す」、という諺があるが人にはどんな力が隠されているか、どんな力を隠しているかは中々外から見れば分からないかもしれない。もしかすると何か理由があってその力を隠しているのかもしれない。例えばライトノベルの主人公がそのような事をしている場合、往々にしてあり得る理由は、平穏を望む為、だったりする。
ではこの作品の主人公である悠人(表紙右)はどうなのか。彼が望むのも平穏、ではある、と思ったら大間違いである。昼行灯的で無表情な彼の内面、そこに隠れているのは狂気と凶暴。世界の全てを飲み込むような、触れてはいけぬものが潜んでいるのだ。
最新技術により開発された超常の力、「異能」。ランクによって四つに分けられるその力を入学時に与える学校、選英学園。かの学園の一年C組に入学した悠人が得たのは「相手の目を悪くする」だけの力。その力を心配され、強力な異能が発現した正義の味方を志す少女、霞(表紙左)に守るべき対象として認識され付きまとわれ。それが気に食わないクラスの不良からの壮絶な苛めを受けることになってしまう。
「―――僕はさ、この学園をぶっ壊してしまいたい」
「今のは純粋な身体能力だ。―――これに異能まで使ったら可哀そうだろ?」
だが、不良は知らなかった、自分が何に手を出したのかを。自分にどんな結末が待っているのかを。霞の中に利用すべきカリスマを見つけ、彼女を光として利用し自分は影となる事を決め。悠人は自分と同じく異能を隠していた委員長、蛍を味方に引き入れ不良を秘密裡に、ルールに基づき排除する。底知れぬ狂気をその瞳に、闇の中で全てを片付けると言わんばかりに。
そう、我々読者も悠人という存在に騙されていた。そして彼は、何も明かしてはくれないし見せてもくれない。自分の中に秘密を覆い隠し、暗躍する様だけを見せてくる。想像してみろ、と言わんばかりに。
「次は、お前の番だ」
「貴方は、この私が認める怪物なのだから」
何も言わず、語らず。ただ彼は、時に表で弱者を装いながら仲間をたきつける役割を果たし。時に裏で、霞を導くために必要な人選を考えながら策を巡らせる。彼の掌の上、幾つもの戦いは転がされ操られていく。そして、それを知っている者は少なくとも一人いる。数千年に一度の天才と畏怖される少女が、焦がれながら待っている。彼といつか激突し、遊べる日を。
しかしやるべきことは変わらない。正義の味方を誘導し、希望の聖女として演出し。その裏で影として手を汚す、それだけである。
暗躍を主軸とするからこそ、独特のダークさが見所であるこの作品。中々見ない作品を読んでみたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
異能学園の最強は平穏に潜む ~規格外の怪物、無能を演じ学園を影から支配する~ (オーバーラップ文庫) | 藍澤 建, へいろー |本 | 通販 | Amazon