読書感想:毒舌少女はあまのじゃく3 ~壁越しなら素直に好きって言えるもん!~

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前巻感想はこちら↓

読書感想:毒舌少女はあまのじゃく 2~壁越しなら素直に好きって言えるもん! ~ - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

さて、往々にして高校という場所における学園祭と言うものは秋に行われるとして、秋が終われば何が来るのだろうか。言うまでもなく、冬という季節である。では冬という季節に待っている大きなイベントとは一体、何であろうか。年越し、初詣、様々なイベントが思い浮かばれるであろう。だが、ラブコメと言うジャンルにおいては基本的に一つのイベントが共通認識となるのかもしれない。それは聖夜。恋人同士だとしても、そうじゃないとしても。何かしら関係を動かしていくには相応しきイベントなのである。

 

 

この作品の主人公、啓太とヒロインである雪菜。文化祭を終え、波乱を二人で乗り越えて。徐々に距離を詰めていく二人にとっても、ここが一番大事な季節。二人の関係に決定的な転機がすぐそばにまで迫っている、誰も気付かぬ間に。

 

桜子が啓太を試そうとして雪菜に折檻されたり。桜子と雪菜が些細な誤解から仲たがいして、それを何とかしようと奔走してみれば彼女から惚れられたり。

 

「ウチ、啓太せんぱいのことが好きっす。先輩としてじゃない、異性としてっす」

 

 そんな賑やかな日々が続く中、樹里からお願いされて彼女と一日中デートし。その終わり、樹里は停滞を越え一歩踏み出す。例えフラれると本能的に理解していても、それでもと。その告白は啓太の背を押す手となり、雪菜との関係に波乱を齎す投石となってしまう。

 

「啓太くん・・・・・・私、あなたのことが好き」

 

思わず溢れ出した彼女の想い、だがそれは涙と共に。誰に対しても優しすぎる、自分だけを見てくれない。故に傷つき、心裏腹、毒舌を以て断ち切ってしまう、二人の関係。

 

だが、ここで断ち切るわけにはいかない。彼女の事が大好きだから、ここで終わるなんて出来る訳が無い。

 

「俺、雪菜先輩のことが好きです。付き合ってください」

 

仲直りは簡単、素直になるだけ。やっと心の鎧を脱ぎ捨てて本音で向かい合って。二人の関係はやっと落ち着くべき所へと落ち着く。

 

「情けない話ですけど、夢は特にありません。だから・・・・・・大学四年間、雪菜先輩の隣で夢を見つけようと思います」

 

 二人でいるのが自然であり、もう隣に君がいないのは考えられない。だから、どうしようもない別れを切り出されたとしても。啓太の勇気が、夢が無い子供が見つけた一つの夢が、その選択が。何よりも尊く、輝くのだ。

 

男が決意したのなら、それをやり遂げられない訳があるか? 否、そんな道理は物語の世界の何処にも存在していない。

 

誰しもが何かを抱え、新しいものを得て進んでいく。そして啓太と雪菜も、一年遅れで同じ道を新しい季節に歩き出す。

 

同じ時間と、同じ今を積み重ね、二人の思い出をまた一つ。その様が丁寧に描かれる、故にこの作品は尊く甘い。どうかまだ、もう少しだけ彼等の愛の軌跡が読める事を切に願う。

 

前巻を楽しまれた読者様、やっぱりラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

毒舌少女はあまのじゃく 3 ~壁越しなら素直に好きって言えるもん! (HJ文庫) | 上村夏樹, みれい |本 | 通販 | Amazon