読書感想:三つの塔の物語3

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前巻感想はこちら↓

読書感想:三つの塔の物語2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、一巻と二巻を読まれた読者様は、この作品における魔族である魔壊族の用意周到さと狡猾さは既にお分かりいただけたことであろう。人間の世に混じり、己が目的のために暗躍する彼等。その魔の手が再びイサラ達に迫り、そして彼等の思惑が一つの結実を迎えるのが最終巻である今巻である。

 

前巻で明かされたフーズの奥の手。強大な力を一時的に得る代わりに全く身体が動かせなくなった彼の介護、もといお世話にフィスタが名乗りを上げて。男の尊厳を賭けた戦いがあったとか無かったとか。

 

そんな、描かれなかったけれどある意味描かれなくて幸運だった顛末もあった後、再び上った塔にて、フーズ達は強制バトルが巻き起こる特殊フロアへと迷い込んでしまう。

 

かのフロアで待っていたのは謎の巨狼、スービフレスト。既存の魔物と似通った外見を持ちながらも段違いの力を持つ、今の彼等では及ばぬ境地にいる魔物。

 

生き延びるために再び切り札を切るフーズ、彼に続き自身も奥の手を解放するイサラ。何とか乗り越え、報酬として解呪の為のアイテムの一つを手にし。

 

 しかし、そんな彼等へと魔壊族の悪意が牙を剥く。魔壊族の王の一人の封印、それにとって大事な要であるイサラを害するべく、封印を司る者達が住むアリアの故郷の若者達を唆し。イサラを誘拐する事で害そうとしてくるのだ。

 

乗り越えた先、彼等の知らぬ所で魔壊族の最強の一人であるパセスホールにより封印が解かれ。魔壊族の王の一人、カルセスファイサスが目を覚ます。

 

封印からの直後で弱体化している彼女を再び封印せねばならぬ。そして、やはりそのためにはイサラの持つ素質が重要で。再び事態の中心に飛び込む事を余儀なくされた彼等。

 

 だがしかし、そんな危急の事態も悪い事ばかりではなかったのかもしれない。事態の中心に飛び込む以上、強くなければいけない。そんな訳で、彼等はフィスタ達エグゼレンジャーと共に生活し修行が出来る事になったのである。

 

「今更違った対応をされてもね。今のままの姉さんが好きだよ俺は。十分に魅力的に映ってる」

 

迎えに来たフィスタにいつもと変わらぬ対応をしているように見えた事をローカスに指摘され、フーズの答えでこれからもこの三人でいる事を前提とした彼の心が垣間見える一幕もある中始まる修行の日々、その中で見出していく新たな力。

 

フーズとアリアは魔術の新たな使い方、魔達術を。イサラは全体的な強化を、ローカスは実家に伝わる秘伝の技を。

 

 力を身に着けても、彼等は出番は無いはずだった。それもまた当然であるかもしれない。何故ならば彼等はまだその段階に至っていないのだから。しかし、決戦の日。パセスホールの手により戦場とは離れた場所へと送られた彼等は、分断され単独での戦いを強いられる事となってしまう。

 

敵は分体と言えど上級魔壊族。しかし彼の人間への興味、そして驕りこそが付けこむ隙。そして彼の知らぬ人間の強さ、新たな力こそが勝利への鍵。

 

傷つきながらも失いながらも掴んだ勝利。だが失われたものはあまりにも大きく。度重なる奥の手の使用で、イサラの寿命は残り三年ほどまでに削られてしまう。

 

『苦難の道を選ばされ、己が身を削る覚悟を決め、力振り絞り困難を突破し、大願を成就した娘に未来を』

 

 もう救いは無いのか、何処にもないのか。否。この作品におけるこの時代は、未だ神の時代。そして神が、頑張ったイサラに手を貸さぬわけがなかったのだ。

 

何れ来る神の時代の終焉の遥か前。神の時代に必死に生きた者達。歴史書になんか載らないけれど、それでも確かに彼等はそこで生きていた。己が願いのままに。

 

そんな切なる思いが感じられるからこそ、この作品は面白いのである。

 

どうか画面の前の読者の皆様も、是非楽しんでみてほしい。

 

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