読書感想:貴族令嬢。俺にだけなつく

 

 さて、誠実に生きる事、謙虚に生きる事というのは人生において大切な事である。決しておごらず、誰に対しても誠実に感謝を以て。それこそが周囲との関係を円滑に進めるかもしれぬカギである、というのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。ではこの作品において、それは何が関係があるのか、というのであるが。大いに関係あるのである。

 

 

現代日本社畜生活にいそしんでいるとある男。かの男はある日の深夜、交通事故に遭い自身の死を自覚し。死んだ、かと思えば自分の目に映ったのは見慣れぬ自分。その瞬間、彼はとある異世界のギーゼルペインという国の侯爵家の一人息子、ベレトに転生しているという事を自覚する。

 

「いつもありがとね、シア。凄く助かってるよ」

 

 一先ず自覚するのは、体の元の持ち主であるベレトが傍若無人、横暴を絵にかいたような貴族の悪い面を煮詰めたような人物であるという事。だが、男にはそんな行いは出来るわけもなかった。何せ日本人の感覚なので。故に今度は自分の感覚に合わせる事で、ベレトは突然真人間、公明正大、真反対の方向へとキャラが変わる。そうするとどうなるのか。それは勿論、周囲の大混乱である。

 

今まで当たり散らされるだけだったお付きのメイド、シアは真っ先にその変化を目の当たりにし大いに戸惑うもその方がいいと受け入れ。その話を聞いた級友であり、「紅花姫」との愛称で呼ばれる令嬢、エレナも警戒と興味の元に接近し、ベレトの何とか絞り出した理由の説明に一応の納得を見せ、自分と近い人間と安心し仲良くなり。

 

「今さらですが、あなたのことを信じることにします」

 

そして、ひょんな事から図書室で出会った「本食いの才女」、ルーナ(表紙)は彼の悪い噂から最初は警戒するも、屈託のない彼の真面目さに警戒を解き。物静かな表情に隠れていた豊かな表情を、彼にだけ見せていくようになる。

 

ある日はエレナの弟であり、とある夢を持つアランの相談に結果的に乗る事になり、日本人の見地から夢の弱い部分、問題点を指摘し彼の夢の土台を固める結果となり。

 

またある日は、ルーナと二人きりでお出かけに繰り出し、シアへのプレゼントを一緒に選んだり、サプライズでルーナにもプレゼントをしたり。

 

「本当にもう・・・・・・」

 

日本人として当たり前、寧ろ日本人だからこその当たり前。その行いは貴族社会においては異端であり、だが人としては正道を往く行い。その行いが少しずつ、彼の悪い噂を払しょくし。気が付けば彼に惹かれる者達が、彼の周りで輪を形成していくのである。

 

「なんかいい」、正にこの言葉に尽きる甘さのある、当たり前の優しさがほんのりとした温もりを持っているこの作品。何気ない甘さが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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