読書感想:のくたーんたたんたんたんたたん

 

 さて、夜想曲と書いてノクターンと読む訳であるが、本来のノクターンがどういう意味を持つのかは皆様の手で調べていただくとして。一見するとこの作品のタイトルは、意味が分からないものである。思わず口ずさむかもしれぬような軽快さもあるけれど、絶対にカンペが無い限り間違えそうになるかもしれないし、噛んでしまうかもしれない。このタイトルには一体、どういう意味が込められているのか。それはこの作品の最後、明らかになるのである。

 

 

2025年、「第三次世界大戦」が終結し八十年、戦後の日本復興のために開発された「ナノハ」の街。大きく七つの区に別れるうちの一つ、第五地区。電気とオタクの町であるこの街は、ナノハ一平和な地区であると言う表の顔の裏に、具体例を挙げればキリがない犯罪都市という裏の顔を持っていた。

 

「―――おいおい、化けて出るには早すぎだろ・・・・・・」

 

 この街には一つの都市伝説があった。それは悪人のみを殺す表情のない「死神」の噂。その中の人である少年、ユズリハ(表紙左)。唯一の肉親であった父親を殺した「亡霊」を追い、例えそれが知人であっても悪人は殺す。手を血で染め続ける中舞い込んできたのは、自身の所属する組織から金を盗んだ少女を殺す依頼。だが、その標的であった少女、山田ハナコ(表紙右)は確かに彼が殺したはずなのに、目の前で蘇って見せたのである。

 

どんな殺し方をしても、それこそ髪の毛の一本からでも蘇って見せる。何度殺しても、普通の人間みたいに死んだ上で再生してくる。しかも彼女は自分に惚れたと言って、あろうことか彼の所属する組織のアジトにまで乗り込んで、同じ殺し屋となってしまったのだ。

 

ぐいぐい来る彼女に振り回され、彼女の指導も押し付けられ。だがそんな中、突如として「亡霊」に繋がる糸は手繰り寄せられる。

 

少女を絞殺する事を至上命題にする元ピエロの快楽殺人鬼をハナコと共に追い。級友である委員長、トモリが被害者となってしまうのを目撃し心乱しながらも追い詰めて。今わの際に殺人鬼は「亡霊」の名を嘯き、偶々生きていたトモリに安心したのも束の間、「亡霊」からの招待状が届く。

 

 招待状に記された地で待っていたのは、ユズリハにとってはある意味因縁の相手すぎる「亡霊」の正体。そこで語られるのは、ハナコの不死の秘密である「悪魔」との契約と同様である、「亡霊」と「悪魔」の契約。かつての「亡霊」のように力を望んだユズリハに、現れた「悪魔」は可能性の世界を見せる。

 

その世界は、父親が生きている平凡な優しい世界。今までの全てを失う代わりに、平穏があった。それは心の何処かで自分が望んでいるものだった。

 

だがそれは自分自身の否定に他ならぬ。そして父親の幸せをも犠牲にするという事。過去から続く可能性なんて要らない、自分の責任から逃げる気もない。「悪魔」に手を下し「亡霊」にその刃を届かせて。

 

「のくたーんたたん、たんたん・・・・・・たたん」

 

 「亡霊」の望みをかなえ、涙と共に。唱えられるのは教えられたおまじない。泣かない為の魔法の呪文、それは父親からの愛の証。

 

コミカルに見えて根っこは割とシリアス、一気に搦めとって引き込んでくる。そんな面白さのあるこの作品。確かな力があるので是非、皆様読んでみて欲しい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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