読書感想:門番少女と雨宿りの日常

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 さて、「居場所」というものは誰にとっても重要なものである。自分がいてもいい場所、それこそが居場所であり、居場所が無ければ人生は灰色となってしまうのかもしれない。では、自分だけしか知らない秘密の「居場所」。そんなものがもしあるとしたら、画面の前の読者の皆様は羨望されるのであろうか。

 

 

高校一年生、元不良の今一般人。そんな少年、照(表紙下)。彼には一つ、悩みがあった。それは脱不良を果たしたものの、見た目のいかつさだけはどうしても変える事が出来ず。実際の心は仲良くしたいけれど遠巻きにされ、教室に居場所が無いという事である。

 

「と言いたいところですが、はい、そろそろどうぞお引きとりくださいませー」

 

 ヘッドホンで周囲との交流を断ちながら、一人で落ち着ける「居場所」を探して。そんな中、彼は開放されていない屋上前という絶好の隠れ家的スポットで一人の少女と出会う。彼女の名は心(表紙上)。レトロゲームを愛し、校則違反と知りながらも校内に持ち込む、謎の先輩である。

 

周囲との関係もまあまあ悪くて、家族との関係も最悪で。何だかんだとお互い不干渉と決めた筈、だが何処か投げやりに心へと事情を話したら、何故か彼女を師匠としてイメチェンへの試練に挑む事になってしまって。

 

彼女に課された「試練」のせいで、周囲と関わる事を余儀なくされ。彼にあきらめずに話しかけるクラス委員、麻里佳に心配されたり、生徒会代行を名乗る謎の少女、未来に心とまとめて一方的に絡まれたり。

 

 だが、振り回される中でも確かに何かは変わっていく。周囲と関わる事で、手遅れと思っていた事が少しだけ変わっていく。その裏、変化を拒絶する少女がいる。誰を隠そう、心である。

 

彼女もまた、ひた隠しにしていたことがある。それは照と同じように、彼女もまた家庭に居場所が無いという事。自分にとっては有難迷惑な親切に心を閉ざし、一人でいれる屋上前だけを自分の「居場所」として。

 

 だが、そんな不可侵である筈の聖域は穢され、彼女の居場所は奪われ。自分の殻に引きこもる彼女へ、照は今度は自分から向き合っていく。

 

意固地になっていた、ここだけが自分の居場所だと思い込んでいた。そこが寂しい場所だと気が付きながらも。

 

「決まってんだろ。屋上をブッ壊しに行くんだよ」

 

 その状況を打開するために選んだのは破壊活動。それは無謀か英断か。それもまた善意の押し付けであったのかもしれない。けれど確かに言える事、それはこの行動こそが何かに繋がる鍵となる事。

 

「居場所」は一か所だけじゃない。何処にだって作っていける、世界を広げて、大切な人と一緒に何でもない日常を重ねてさえいけば。

 

この作品に登場する誰もが、ややこしくひねくれて、青い。だけど、いっそ面倒くさい彼等だからこそ見つけられた「居場所」がある。紡げる景色がある。

 

何処か瑞々しくて若々しい、青春そのものの面白さのあるこの作品。

 

ひねくれた青春ものが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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