読書感想:チルドレン・オブ・リヴァイアサン 怪物が生まれた日

 

 さて、世界の面積の七割以上を占める海、というのは非常に夢に満ちた世界である。ヒトガタのようなUMAの目撃情報だってあるし、一説によれば古代の巨大鮫であるメガロドンが生きているなんて説もあるらしい。もしかするとゴジラに登場する怪獣のような生物もどこかにいるのかもしれない。では、画面の前の読者の皆様はこの作品のような事態に陥った時。果たしてどうされるであろうか。

 

 

津波・・・・・・? 揺れてないのに?」

 

その日、世界は唐突に壊れた。気仙沼市を始めとする環太平洋沿岸部を襲った未知なる脅威。その名は「レヴィヤタン」、通称「レヴ」。核融合炉を動力源とし防御力と俊敏性を備えた正に神話が如き怪物。その怪物達に世界は在り様を変えられ、海は怪物達により支配された。

 

 しかし、人間も然るもの。けれど生み出したのは禁忌の力。その名は「ギデオン」。レヴの死骸を元に生み出された兵器であり、拒絶反応の存在により子供にしか動かせぬ兵器。そんな兵器を狩る、民間会社に所属する少年、アシト(表紙右)。サルベージ船の船長の家にお世話になりながら、契約により遺留品捜査にもっぱら励む彼の前、国連軍から招聘されたエース、ユア(表紙中央)が戦闘指導官として現れる。

 

「すごく、素敵な音だと思います」

 

今までを戦いに費やしてきたからこそ、気仙沼の搭乗者である子供達とは中々価値観が合わず。そんな彼女と、ひょんな事から交流を深め。彼女の元で戦闘訓練に励み、時に同じ海域で泳ぎ戦っていく中。アシトは少しずつ、戦いに加わり。何かが目覚めていくように、自分の何かが変わり出していく。

 

「・・・・・・あたしたちが戦う必要って、あるのかな」

 

 だがしかし、そんな彼の心を友人であり同僚のエリン(表紙左)の言葉が揺らす。ままならぬ世界が、周りの大人達が。彼の心に波紋を投げかけていく。

 

四年前に別れたきりの父も、船長も。本当はアシトに戦って欲しくはない。だが船長は、それでも送り出す。

 

子供心に全てを救いたいと願っても、指示役である大人達はその声を黙殺する。条約に従い守るべきものを守れ、とくぎを刺してくる。

 

だがそれでも、己の心のままに、と。かつてアシトが一度だけ戦った場面を目撃し憧れすら抱いていたユアを説き伏せ、エリンも合流し。三人は守らなくていいと命じられたコンテナ船を数百のレヴの群から守るべく、基地を飛び出していく。

 

【炉核、点火】

 

 数百のレヴの群を前に、多少は凌げれどなすすべもなく。あっという間に混沌の大乱戦へと陥り、ユアが覚悟を決めてアシトを突き放す中。届いたエリンの声に約束を思い出し、自らの心の中、「執着」を見つけ。アシトは生き延びる為、禁断の一手を選択する。・・・それは自らを終わらせるもの。そしてその代わりに、正しく「怪物」となるもの。

 

まさに、海神の子供と言わんかのように。今、確かに怪物が生まれる。「アシト」という存在を犠牲にし、全てを終わらせる。

 

そして生まれた怪物は、海底に向けて去っていき。残されたユアとエリンは、それぞれの思いの元に追いかけ始める。またあの「怪物」と会うために。

 

まさしくジュブナイル、切り裂くような心情の中に喪失が重くのしかかるこの作品。だからこそ面白い。心をぐっと掴まれるのだ。

 

心に残る作品を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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