読書感想:Mother D.O.G

 

愛する者を、愛を信じて殺せるか。というどこかのアニメのキャッチフレーズはともかく、画面の前の読者の皆様は例えば自分が手塩にかけてプレイしたゲームのデータを躊躇わず消す事が出来るであろうか。まるで自分の子供のよう、とは言わずとも少なからず思い入れのあるものを捨てることは出来るであろうか。

 

 

という前書きから察していただけたかと思うが、この作品はそういう作品なのである。「化物」な二人が「人間」として、「化物」から生まれた「化物」を屠っていくお話なのである。

 

かつて、何万もの子供達を被検体として、推し進められた狂気のプロジェクト。それは世界最高の生体兵器を創り出すというもの。計画は唯一の成功例を生み出し、その成功例の細胞を用いて創り出された兵器。それを通称、「D・O・G」と呼んだ。反団体によりほぼ全ての研究と製造手段は破壊されるも、一部は流出し。世界の様々な場所で、謎の大量殺人を巻き起こしていた。

 

「―――あなたを生んだのは私だからよ」

 

 そんな世界で、生体兵器の足取りを追いまるで死神のようにその命を奪う二人がいた。その一人は夜子(表紙下)。全ての生体兵器の生みの親となった唯一の成功例。もう一人の名をサトル(表紙上)。夜子の傍にいつも侍る、彼女が生み出した最後の「子供」だ。

 

彼等は日々、追いかけていく。世界各地に散らばる、怪物たちの足取りを。その中で見つめていく。怪物達に絡まる、現世で生まれた様々な思いを。

 

大都市を揺るがす「人狼」の噂。そこに隠されていたのは、許されぬ悪への怒りに満ちた、身勝手な正義の感情。

 

熱帯に位置する島国。そこで生まれた怪物の最後の生き残りとしてジャングルに隠れた姿の見えぬ怪物。そこに絡まるのは、親としての愛、そして人間としての復讐心。

 

そして全ての始まり、サトルが生まれるきっかけとなった事件。そこにあるのは、家族としての愛。どれだけ歪んでいたとしても、生まれが違ったとしても。家族を死なせたくないと言う、「人間」としての当たり前の思い。

 

「ええ。あなたの『仕事』が全部終わるその時まで、ずっとそばにいますよ。僕はあなたを心から愛していますから」

 

どれだけいってもいたちごっこ、終わりなんて見えない。そして本質的には「怪物」である、故に人の世界に居場所何てない。それでも彼等は「人間」として行く。いつか全てを終わらせるために。

 

オムニバス形式な為あっさり読める中に、独特の悲壮感のあるこの作品。お手軽に悲壮感を味わってみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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