読書感想:サマータイム・アイスバーグ

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は「氷山」と聞いて何を連想されるであろうか。ペンギンを連想された読者様、もしくはどこぞのコードギアスの海を進む氷山を連想された読者様、等々回答は様々であろう。しかし日本において自然の氷山、なんてものは見られる訳ではない。当然である。ここは日本であるのだから。ではもし本当に氷山が見えたのならばどうなるだろうか。そんな荒唐無稽な状況から始まるのが、今作品なのである。

 

 

今から少し先の未来の夏の三浦半島。そこを今、大騒ぎの渦中に巻き込んでいるものがあった。それは何か。その正体とは巨大な氷山。日本では決してあり得ぬ筈の謎の自然生まれの物体が突然脈絡もなく、でんと海の中に鎮座していたのである。

 

 そんな三浦半島で暮らす、少年二人と少女一人。夏休みの間だけ叔父と叔母の家で暮らす進、外見派手だが中身は純情な羽(表紙右から二人目)、文武両道だが悩みを持つ一輝。かつては仲の良かった、けれど進の幼なじみであり現在は不慮の事故で昏睡状態で入院中の少女、天音(表紙中央)の事を切っ掛けにぎくしゃくした三人。三人はある日、不思議な少女と出会う。

 

その名は日暈(表紙右端)。どこから来たのかも分からぬ、けれど何故か天音の幼い頃にそっくりな少女。進の叔父である鉄矢の一言により彼女を保護する事に決め。彼女の「楽しい夏を過ごしたい」という願いに答える為、進達は三浦半島を奔走する事となる。

 

 皆でご飯を食べたり、羽のバイト先に遊びに行ったり。当たり前の日常をこれでもかと過ごす中。進を時折襲う、実感を伴った謎の白昼夢。その裏で進行する、各省庁や研究機関による氷山の調査。その調査の中で見えてくる氷山の正体。それはこれが未来からの贈り物であり、一種のタイムマシンであるという事。

 

それは近未来でもオーバーテクノロジー。世界を覆しかねないそれの処遇を巡り国同士の思惑が火花を散らし。そしてそれは進達にとっても対岸の火事ではなくなっていく。大人達の思惑が日暈を狙いその魔の手を伸ばす。

 

「やれよ! 誰にも遠慮なんか、するんじゃねぇ!」

 

だが、進の背を押すものがあった。今まで知らなかった鉄矢の内心に背を押され、日暈と共に進は氷山を目指し。

 

 

「なめんな、ばかっ」

 

「いつかまた、会えますか?」

 

そして羽と一輝もまた、それぞれ誰かの思いに背を押され。今しかないとばかりに駆けだしていく。全ての始まりとなった氷山を目指して。

 

「きっと、またみんなと出逢うためだよ」

 

同じ夏は二度とこない、正解も答えも難しい。けれど駆け出したのなら何かが変わる。いつかの出会いに向けて、未来が駆け出していく。

 

一度きりの青春、一度きりの夏。青臭い感情のままに時にぶつかり、それでも駆け出す。それは正に青春の情動、青くて瑞々しい思い。それがこれでもかと溢れているこの作品は、正に青春そのもの。だからこそこの作品、正に心に吹き抜けるものがある。故に真っ直ぐに面白いのである。

 

王道な青春ものが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

サマータイム・アイスバーグ (ガガガ文庫 ガし 6-1) | 新馬場 新, あすぱら |本 | 通販 | Amazon