さて、隆之介と栞、この作品の主人公とヒロインである二人の思いはどこか交わらず、お互いを見ているようで肝心なところでお互いを見ていない。と、いうようにもどかしい関係であるのは前巻までを履修されている読者様であればもうご存じであろう。しかし、二人の関係は恋愛相談を通じて確かに近づき、徐々に向き合い始めている。そう、すれ違っていた思いが巡り合った時の感動は、すれ違った分だけ大きくなるのである。そして、ようやく二人の思いが本当の意味で巡り会うのが今巻なのである。
「彼氏ができるかもしれない」
今まで恋愛相談に乗ってきた栞から唐突に告げられた、彼氏ができるかもと言う知らせ。その報告を受け、好かれていたのは自分ではなかったと勘違いしてしまった隆之介は気落ちし、半ば抜け殻のようになってしまう。
「どうせ、雛形先輩のことでしょう」
「センパイは鈍感すぎてヤベー奴です」
そんな彼を、しのぶや小夏が心配げに見つめ。いつもの小悪魔の仮面を少しだけ封印した小夏にも諭され、少しずつ前を向き始めた隆之介を待つのは修学旅行。栞達と班を組み向かう未知の場所、しかしそこが本当の意味で決戦の舞台になると言う事を、彼は未だ知らずにいた。
修学旅行先の部屋に栞が訪ねて来たり、皆でナンパに挑んでみたり。いつもとは違う時間の中、栞の好きな人を探ろうとする隆之介に不意に訪れた栞との二人きりの時間。そこで明かされる、栞の真意。本当は誰が好きであったのか、という答え合わせ。
「昔からずっと。私、好きなんだよ、隆之介のこと」
ようやく本音で向き合いお互いの思いを重ね合わせ。やっと巡り会えたお互いの思い。何年もすれ違い続けてきた思いはようやく向き合い、ここに二人が望んだ形で結ばれる。ならばここからの時間は何か。それはアフターストーリー、エピローグであるのだ。
相も変わらず小夏に振り回されたり、二人でデートで海に行ったり。また昔のように夏祭りに繰り出したり。離れていた時間を取り戻すかのように。あの日交わした約束は肝心なところで思い出せぬけれど、それでもこの想いは変わらず向き合い続ける。
「もう果たされたよ、約束」
そして向き合い続け進み続けるのなら、約束の場へは気づいていなくとももう辿り着いている。そしてその先へと、永遠の約束と一緒に。風と一緒に、終わらない明日へと歩き出していくのである。
まごう事無きハッピーエンド、末永き二人の幸せをこれでもかと祈りたくなる今巻。
どうか、画面の前の読者の皆様も最後まで、共に見届けてほしい次第である。
幼なじみからの恋愛相談。3 相手は俺っぽいけど違うらしい (角川スニーカー文庫) | ケンノジ, やとみ |本 | 通販 | Amazon