前巻感想はこちら↓
読書感想:夢見る男子は現実主義者4 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、芽生える想い、は未だ芽生えず。萌芽の目は見えれど、未だそこには至らず。そんな微妙な、何とも言い切れぬ思いを抱えるのがこの作品のヒロインである愛華である、というのは前巻までを読まれた読者様であればもうご存じであろう。ここからは例に漏れず、前巻までを既に読了されている読者様がこの感想の頁を開かれていると言う前提の元にこの感想を書いていくわけであるが、ここから愛華の心は変わっていくのだろうか、と言われるとどう答えるのが正解になるのだろうか。
あっさりと言ってしまうのならば、もう少しだけかかる。だが、確かに萌芽は始まっている。その始まりとなるのは、新たな季節の始まりであり混迷の始まる二学期である。
二学期となる前、夏休みになる前に一ノ瀬さんに懐かれ。あまつさえ、生まれて初めてのラブレターを貰い。「現実主義者」へと立ち返りつつあるからこそ、渉は更に注目を集めていく。暴君な姉の命令により、一時的に生徒会を手伝う事になり。そのハイスペックぶりを少しずつ知られていきながら、渉の名は更に知れ渡っていく。
「・・・・・・ごめん、なんでもない―――」
そんな彼の姿を見て、愛華の心の中に浮かび上がる謎の焦燥感。何故か彼が離れていくと言う夢が悪夢となる様に、彼を囲む輪の中に入りたいと無意識に願う程に。けれど考えてしまう。自分は、もう断ち切ってしまったのだ、という事を。
そう、二人の関係は一度断ち切られている。その上で、夢から覚めた彼へと自分から、切ってしまった手を伸ばそうとしている。それは不誠実な事ではないか。思い悩み、けれどどうしても彼の事が気になって。悩む心を揺らしながらも、思いを忘れるかのように愛華は文化祭実行委員会の仕事へと励む。
だが、その仕事こそが曲者であった。生徒達の立場の違い、そして仄暗い思惑の絡むまるで伏魔殿のような中へと、彼女は自ら飛び込んでしまったのだ。
「―――やります。やらせてください」
終わらぬタスクと胃の痛くなるような人間関係、そして己の分からぬ心に振り回され焦燥し消耗していく愛華。そんな彼女を見逃せるわけもない。見逃す渉でもない。彼女を救う為、彼は遂に参戦を決める。己の中のスイッチを切り替え、全ての力を発揮すると言う決意を胸に。
変わりつつある心、ようやっと見え始めた萌芽の兆を阻むは取り返しのつかない過去。何処か苦く切なく、次巻へ向けての期待を高めてくる今巻。
前巻を楽しまれた読者様は是非。シリーズファンの皆様も是非。
きっと貴方も満足できるはずである。