読書感想:嘘つき少女と硝煙の死霊術師

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問:死霊術士、ネクロマンサーと言えば誰か?(シンキングタイム五秒)

 

(少々お待ちください)

 

さて、上記の問いに対して私はファウストⅧ世と答えてしまうシャーマンキング好きなオタクであるが、画面の前の読者の皆様はどんなキャラクターを思い浮かべられているであろうか。その答えは読者の皆様各自で思い浮かべていただくとして、皆様は創作における死霊術、というものにどんな印象を抱かれているであろうか?

 

 

 その答えの一つとして、陰気、狂気というものがあげられるかもしれない。勿論それは仕方のない事かもしれない。何故ならば往々にして死霊術とは敵方が使う技術である事が多く、様々な作品で禁忌の術としてカテゴライズされている事が多いからである。

 

その考え方はこの作品でも息づいている。ではこの作品における死霊術士は皆狂人であるのか。

 

答えは否、そんな事もなく。控えめに言ってロクデナシな奴等も多いけれど、其れでも皆、自身の思いに真っ直ぐに生きる者達ばかりである。

 

異世界の国、ヴェルサリウス。かの国家の裏に建国当初から根付く影の軍勢。それは死霊術師達の部隊。表ではなく裏から、日の当たる場所ではなく影の中。記録に残らず名誉も得られず、それでも国に仇為す者達を秘かに粛清する者達として彼等の姿はあった。

 

そしてその一人であるコードネーム「狩人」。その名をウィリアム(表紙左)。散弾銃を武器に反乱者共を狩る者であり、とある村が壊滅した事件の唯一の生き残り。

 

その相棒である死骸の名はライニー(表紙右)。記憶を持たぬ死骸であり、その身を武器として戦う彼の相棒。

 

 二人が手を取り挑んでいく、国の裏で革命を目論む者達の思惑。それは国家を転覆させる程のものであり、同時に二人の過去にも関係するもの。

 

そう、二人の過去である。ウィリアムにとっての悔恨、それはライニー。その本当の名はミーシェ。ウィリアムにとって何よりも大切だった幼馴染であり、守れなかったもの。

 

絶望の中、後に上司となる死霊術師と出会い、地獄の扉を開けるようにその手を取り。だが望みの果て、得られたのはライニーという記憶喪失の相棒。それでも、守りたいと願った。只一人を、どれだけ悪に染まるとしても。

 

ウィリアムがライニーに思いを抱えるように、彼女もまたウィリアムへの思いを抱えていた。かつての自分が死の淵で願った蘇生、だが自分には記憶が無い。だからこそ悔い、それでも共にと願った。

 

 上記で記述した通り、二人が抱える事情はとんでもなく重いものである。だが、二人はまるでそんな事を気にしちゃいない。時に賑やかに笑い合いながら、あくまで外道として。敵と向き合い、始末していく。

 

「悪党に命乞いをしたらどうなるかなんて、お前が一番わかってるだろ?」

 

悪党として、それでも矜持を胸に。そこにあるのは確かな、ダーティな輝きと魅力なのである。

 

ライトなダークファンタジーが読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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