読書感想:俺の『運命の赤い糸』に繋がってたのは、天敵のような女子だった件

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 さて、人間には人生の内で三回、結婚すべき相手と出逢える機会があるらしいと何処かで聞いたが、それはともかく。運命の人、運命の赤い糸。そんなロマンチックでありファンタジーのような言葉を聞かれたことのある、画面の前の読者の皆様はどれほどおられるだろうか。現実的な考え方を持っておられる読者様であれば一笑に付してしまうであろうそんな言葉。ではもし、そんな概念が本当に、自分の目で観測できる事象となってしまったら、貴方はどうされるであろうか。

 

 

とある現代世界の日本。特に生活水準等にファンタジーな要素はないけれど、この世界には一つだけ、ファンタジーな要素があった。

 

 それは「赤い糸」。この世界の人々の、十六歳になる年の四月二十二日に一律して現れる、この自分にしか見えぬ糸。その先に繋がる人に出会えた時、その人と幸せに結ばれるという統計的な結果を伴う存在。これこそがこの作品の肝であるという事を、画面の前の読者の皆様は一先ずご理解いただきたい。

 

そんな赤い糸は、この作品の主人公である鈍感系男子、暁斗(表紙右)の元にも表れる。

 

無論、地球上の誰の元に繋がっているかも分からぬ赤い糸。が、しかし。何の因果かその運命の相手はすぐ側にいた。

 

「ちょっと真田」

 

「げっ」

 

 その相手こそが、級友でもあり顔を合わせれば喧嘩ばかりの天敵、梨蘭(表紙左)。寄りにもよって、最悪の相手と繋がれてしまったのである。

 

普通に考えれば結ばれるなんて夢のまた夢のようなこの状況。

 

『真田暁斗―――あなたのことが大好きよ』

 

久遠寺梨蘭―――お前を愛している』

 

 しかし、これもまた何の因果か。天敵同士だった筈の二人は両片思い。そして二人の間を結ぶ赤い糸は、世界に数例しかない程の結びつきの強さを示すもの。その効果もあってか、二人の思いはお互いに筒抜けとなり、お互いに隠せなくなってしまったのである。

 

もうお分かりであろう。隠し事が出来ぬ、お互いには。なればツンツンしていても意味がない。

 

「アンタは一生ッ、私だけを見てればいいのよ!」

 

だからなのだろう、どんどんと自分の思いを隠せず、それどころか暴発とは言え素直になったり。梨蘭はどんどん、不器用だけれどデレデレになっていき。

 

「・・・直視できない」

 

そんな彼女に引っ張られるかのように、染め上げられていくかのように。不器用な暁斗もまた、素直になっていく。

 

 ツンデレ少女と鈍感男子、実は昔から関りのある二人のもどかし甘々ラブコメディ。この作品を簡潔に表すのなら、そんな表現が良いだろう。―――だが、少しだけ考えてほしい。そもそもの恋のキューピッドとなった赤い糸、その残酷さというものを。

 

考えてもみてほしい。確かに運命の人を示してくれるのは良いかもしれない。だがそこに個人の思いは介在出来ない、十六歳というお年頃の子供達の揺れ惑う想いは反映されず、容赦なく結果だけを指し示す。

 

止まって―――私の涙。

 

赤い糸により結ばれる恋もある、だがそのせいで破れる恋もある。そして運命の人がいるのなら、結ばれる事が出来るのならば、それは自由恋愛という権利の否定になるのかもしれない。ならばそれは・・・中々のディストピアなのではないだろうか。

 

そんな唯一無二の、毒にも薬にもなり得る世界観で展開される、ラブコメとして一種の満点の展開が繰り広げられるこの作品。

 

唯一無二の世界観を楽しみたい読者様、ツンデレ女子とのもどかしいラブコメを楽しみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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