前巻感想はこちら↓
読書感想:恋は双子で割り切れない - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、この作品の今巻については、ネタバレに配慮せずどんどんと攻めていきたいので、画面の前の読者の皆様にはご承知願いたい。申し訳ない次第である、だが私にはネタバレをせず書ける語彙力が無い。万の言葉を費やしても、今巻もまた語りつくせぬかもしれない。だが精一杯に書いていくので、其れでも良いという読者の皆様はこの巻の感想を読んでいただきたい次第である。
さて、前巻の最後で彼等の関係は那織の手により、一度空となった。空っぽとなった彼等の世界と言う星、もう一度時代をゼロから始めようとする彼等。
しかし、そう簡単には進む訳がない。那織も琉実も予想しえなかった伏兵が、彼等の関係をかき乱しに来る。
その名は慈衣奈。親が有名ブランドのファッションデザイナー、自身もモデル業に勤しむ派手めなギャルであり、琉実の友人である。
いつも成績は赤点ギリギリ、補修の常連。そんな彼女は何故か琉実を通じて純に勉強を教える事を依頼し、結果的に引き受けてしまった純を振り回す事となっていく。
無論、慈衣奈は新たなヒロインとなる訳ではない。当然である。純は今、琉実と那織という双子の間でセンチメンタルに揺れているのだから。故に、他の女子が入り込む隙間はその心に存在しない。
「これでいいか?」
「どういう理屈でそうなるんだよ・・・・・・」
那織から約束替わりに衆人環視の状況下で求められたハグ。それを見て怒った琉実から求められた秘密の場所でのハグ。
求められ断り切れず、沁みついた双子の匂いでむせるくらいに。どちらにも振り切れぬ、割り切れぬ心を抱え。選ぶことも出来ず、自身の心を決めきれずに選ぶ事を放棄しようとする純。
しかし、彼は気づいてはいない。琉実が抱えた再燃した恋心の熱さも、那織が抱える寂しさも。
「なんで私に何も言ってくれなかったの?」
琉美と純だけで行動し自分は置いてきぼり、不愉快と不満を隠しきれずに問いかけても帰ってきたのはあいまいな答え。
自分には関わりのない所で進行していく何かの事態。少しずつ積もっていく、純と琉実への不信。
「キスして。昔みたいに」
そしてその裏、いよいよ訪れようかという双子の誕生日。フライングで純から誕生日プレゼントを渡された琉実は、勇気を出してキスをねだる。まるで、自分の心は決まった、引金は私だと言うかのように。
「お願いだから、もう仲間外れにしないでよ」
そして彼女もまた。琉実も持っていない、自分と純だけの特別。そんなものを手に入れれど、心に芽生えた寂しさは簡単には埋められず。那織は純の腕の中、小悪魔の仮面に隠れていた弱い心を口にする。
そう、一方を立てればどちらかが立たず。それでもどちらも大切で。だからこそ簡単には割り切れぬ。そんな拗れた関係は、更なる拗らせの外部因子を巻き込みここから本格的に口火を切っていくのだ。
Ask me no more. what answer should I give?
今巻は琉実の手番と言えたのかもしれない。ならば手番は巡り次は誰のターンか。そう、那織だ。何事かを目論む彼女は、本心を解き放ち姉へと牙を剥く時を待っている。
更に拗れ、どこか痛くて苦い、けれど熱い瑞々しい恋心が交わされる。その極上の味が、更なる深みへと至り仕上がっている。だからこそこの巻は、前巻に輪をかけ更に面白い。正に最高である。
だからこそ、敢えて私はこう言いたい。
役者は揃った、お楽しみはこれからだ、と。