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読書感想:恋は双子で割り切れない4 - 読樹庵 (hatenablog.com)
まるで熾火のように、炎と燃え盛る、琉実の、那織の愛、純にだけは、分かって欲しいと向けられるその思い。何方も愛する、というのは出来はしない。お互いがお互いの事を一番知っている、故に分かる。そんなことは出来ないと。だからこそ答えを求め、答えを出す。その答えが示されるのが今巻なのである。
純の誕生日、そこに辿り着く前に語られるのはあの日の琉実の、那織の想い。三人でいた日常が一つの告白で壊れたあの日の事。嬉しい筈なのに、祝える筈なのに。どうしても気になってしまう、那織の傷ついた顔が。どうしても感じてしまう、疎外感を。三人が一人と二人となって、自分だけがそこにいないと言うどうしようもないその思いを。
あの日から道は続いている、繋がっている。今の時間に視点を戻し、今語られるのはあの人は三人で向かう横浜の街での物語。琉実が純と那織の面倒を見て、那織が二人を振り回すいつもの日常。だけど、純は感じていた。この日々はもう、確実に変わるという事を。自分が変えると言う事を。
「でも、ごめん。気持ちには答えられない」
ほら、今だ。もたもたしている暇はない。踏み出す一歩は小さくていい、大きな勇気がいるから。なけなしの勇気を振り絞り、誘ったいつもの公園。そこで告げる、彼の答え。那織へと届けるその思い。
だけど、那織はそれに明確な答えを返さなかった。彼女が望んだ答えであるはずなのに。それは何故か。偏に彼女の面倒くささにより。信じたいからこそ、彼女は完全勝利を求める。だからこそ、那織は純に求めた。自分が望む、答えでの告白を。
それは琉実がやった事にも似ている。だけど今度は宙ぶらりんにはならない。合宿という名目で繰り出す、海沿いの町。いつもの面々に、琉実と柚姫も加えて。遅刻トラブルなんて一幕もあったりして、海で皆ではしゃいだりして。
「僕は、これからも、ずっとその女の子と一緒に居たい」
「良いよ。私の方こそ、よろしくね」
その果て、二人きりの時間の中。もう一度告げる、彼女への想い。琉実もいた、けれどそれはもう仕方のない事。三人で一つ、だからこそこれからも彼女は側に居る。けれど今、純の心を占めているのは自分だ。彼の隣にいるのは自分だ。その答えを、二人だけで。
今ここに一つの想いは結ばれ、大団円・・・とはいかない。ここから始まるのは新たな長寿と繁栄。それもまた当然のことかもしれない。誰かを傷つけてしまって、傷ついても降りられない、人生からは。この関係からは。だからこそ勝ち取ってみせて、勝ち取った夢、思いの中で何を見つける。ここからはそれが描かれていくのだろう。
一つの到達点を迎える今巻、シリーズファンの皆様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。