読書感想:恋は双子で割り切れない3

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前巻感想はこちら↓

読書感想:恋は双子で割り切れない2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、愛はいつだって答えがある訳じゃないと言うけれど、それでも、それでもと答えを出すことは求められる。それこそがこの作品の主人公である純に課せられた命題であることは画面の前の読者の皆様はもうご存じであろう。けれど、彼等の三角関係の糸はもう、解けぬ程に縺れている。簡単に分けられる気持ちじゃない、不可分の思い。だが、答えを出さぬ限りこの想いは胸を蝕む炎となるのだ。

 

 

そして、純や琉実が抱えきれぬ思いに揺れるように、那織もまた恋に揺れる。そして今まで後ろから様子をうかがっていた彼女が、大外から攻める機会を伺っていない訳が無い。

 

前巻の最後、いつものように純達ともっと過ごす時間を作りたいと。那織は純達に部活を作ることを提案し。何とか部活の体裁を整え、着実に準備は進んでいく。

 

「琉実のこと、好きなんだ」

 

 そんな中、試合の惨敗に落ち込む琉実へと投げ込まれた特大の爆弾。部活仲間でもある男子、瑞真からの告白が琉実の心を揺らし彼等の関係に波紋を投げかける事となっていく。

 

『なんとなく、言いたいことは分かったよ。琉実はどうしたいんだ?』

 

「・・・・・・付き合ってなきゃ、言っちゃダメなの?」

 

勿論純の事が好きだから、諦めきれぬから、返事はお断りの一択。しかし瑞真から友達としてのお出かけに誘われ、純に止めてほしくて。けれど純は、まるで背負うと言う責任を放棄するかのように、何処か突き放した態度を見せる。

 

しかし、彼女の訴えは純の心の中に確かな波紋を投げかけていた。部室を賭けて先輩たちとチェスで対決することになり。対戦相手として指名された那織と特訓に励む中、どうしても琉実の事が気にかかる。彼女の残影がちらついて離れない。

 

「僕は二人のことが好きだ。琉実のことも那織のことも、同じくらい好きなんだ」

 

「怖かったんだ。ずっと怖かった」

 

「僕の弱さに付き合ってくれるのなら、この弱さを克服するまでの時間をくれないか?」

 

 残影がちらつく中、改めて自身の心に向き合い見出す心の弱さ。けれど不可分だとしても、答えを求める道はもう戻れぬ。だからこそ、今の時点だとしても正直に。対決に挑む那織から離れ、琉実の元へと駆けつけ純は必死に己の思いを告げる。―――だが、彼のこの行いは一面を取れば正解であっても、那織にとっては面白くない不正解であるのだ。

 

「私の事を好きって言うなら、泊めてよ」

 

夜、琉実と別れた純を家の前で待ち受け、誰もいない家に上がり込んだ那織は借りを返す対価にお泊りを要求し。何処か思いつめた様子で、何処か必死に、まるで縋りつくかのように。純から半ば強引に許可を取り付ける。

 

 それはまるで、手懐けてみろと渡された制御不能の力、恋を制御するのではなく身を任せるかのように。入浴中の純の元へ一糸まとわず乱入し、共に入浴したかと思えば同衾へと持ち込む。

 

「じゃあ、ちゅーして」

 

どうしたらよいかと悩む純へキスを求め。いっそ官能的に、ここにいるのは男と女であると言うかのように、まるで溶け合い境界線を無くすかのような濃厚なキスを交わし。

 

「おとといは兎を見たわ」

 

「きのうは鹿、今日はあなた」

 

「また、キスしようね。凄く気持ち良かった」

 

 そして、SFの短編の一節を用いた、二人にしかわからぬ告白で。那織は純へと傷をつけ、流し込んでいく。己のダチュラを。抱えきれぬほどの、ずっと同じ時を刻んできたからこその恋心を。

 

そう。もう止まらない。止まれない。止まるつもりもない。

 

戻らない。戻れない。戻るつもりもない。

 

誰を選ぶか、誰が勝ち抜くか。それは未だ五里霧中。しかし、恋心の鍵は開けられてしまった。

 

だからこそ、もうこの縺れは止まらない、解けない。これ以上を越え、更なる深淵まで転がり落ちていく。

 

同じ時を刻んできたからこその恋心、それが更なる深みと凄みを放ちだす今巻。

 

どうか画面の前の読者の皆様も、撃ち抜かれてほしい次第である。

 

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